プロ野球の北海道日本ハムファイターズの監督に、新庄剛志氏が就任することが大きな話題となっています。
新庄氏は現役時代、阪神タイガースから米メジャーリーグ、日本ハムで活躍して注目を集めてきたスター選手です。特に日本ハム時代は華麗なプレーもさることながら、ファンサービスとして数々の野球選手らしからぬ派手な試合前パフォーマンスも披露し、チームのファン獲得にも小さからぬ貢献をしてきたといえます。
新庄流には米メジャーリーグの経験が生きている
監督就任後、さっそく話題を集めているのは、プロ野球チームの監督という既成概念を打ち破る、その服装や言動にあるわけですが、他方秋季キャンプ視察で一度グラウンドに立てば、その派手な服装や破天荒な言動からは想像しがたい至って理論的な指導の一端をもうかがわせています。個人的には、この理論派の言動に大変興味をそそられています。
たとえば秋季キャンプ初日に、全野手の肩の強さと足の速さを確認する課題を与えて、一生懸命メモを取っていたのは、とても印象的な出来事でした。普通で考えれば、何よりも打撃のセンスで一人ひとりの実力の優劣をつけるのが一般的なのでしょうが、何よりもまず肩と足で判断するというのは、選手一人ひとりの失点機会の有無や得点機会損失の有無を確認しているかのように思えました。
この視点は、おそらく彼の米メジャーリーグ経験からきているのでしょう。メジャーリーグでは肩が弱い選手や足が遅い選手が、レギュラーの座を勝ち取るのは非常に難しいと言われています。
なぜならば、肩が弱ければ打撃で点を取る確率よりも守備で失点する確率が上回ってしまうからであり、足が速ければ打球に素早く追いつくことで余計な失点を防げ、逆に足遅ければどんなにいいバッティングセンスを持っていようとも、それだけでアウトになる確率が高くなるからなのです。
ビジネスパーソンに置き換えれば、新たな所属長が部下の配置換え検討に際して現状の営業成績や業務知識の有無ばかりで期待貢献度を判断するのではなく、英語力やITリテラシーをもとに、業務のグローバル化やデジタル化の流れの中で機会損失の可能性の大小を重視した検討しているかのように思えたのです。これには、目からウロコが落ちた気分でした。
1打点も、1失点を阻止するのも貢献度は同じ
また新庄氏はSNS上で選手に宛てて、「1打点をあげるのも、1失点を阻止するのもチームへの貢献度は同じ。すなわちホームラン一本も捕殺1個も同じ1点の貢献ということ。常に自分にできる貢献で、プレーに取り組んで欲しい」とのコメントも発しています。
じつに明快で今様です。ビジネス組織におけるダイバーシティの考え方と符合する考え方でもあります。目立つ行動ばかりに陽があたる人事は、今や時代遅れですから。
もう一点、新監督の行動でこれはと思ったのが、午前の練習終了後の休憩時間にグラウンド整備のトンボがけをする選手たちからトンボを取り上げて、監督自らがトンボがけをしていたことです。
これについては、「選手は午後の練習に備えて休んで欲しいし、そもそも選手が練習に専念できる環境を作るのが監督、コーチの役目」と、新庄氏は話しています。
ビジネスの現場においても、管理者は担当者が担当業務に専念できるための伴走者であるべきであり、事務的な仕事や付随的な仕事は管理者自らが手を動かすべきであるのと、まったく符合するのです。
新庄氏の行動は、上に立つ者として理想的な心がけであると思いました。新庄氏が現場指揮官として、どのような活躍をしてくれるのか、今から楽しみです。
さて、今回の新庄監督誕生におけるもう一つの視点として、これを決断した日本ハム球団のマネジメントの考え方にも大いに参考にしたいものがあります。
フロントの決断! 栗山前監督の「後任」としての資質
一つは、新庄氏が2023年シーズンに鳴り物入りで移転オープンする新球場にふさわしい、「人を呼べる」人選であるという点。プロ野球球団といえども、ビジネスであり、いかに収益を上げるかを最優先で考えるのはマネジメントの基本です。
もちろん、プロスポーツはより多く勝つことで人気を集め収益向上につなげるのが主要戦略でありますが、スター性のある指導者を呼ぶことでより大きな収益につなげるという新しい視点には見習うべき部分ではあるでしょう。
さらに過去10年にわたる長期政権であった栗山英樹前監督の後任として、これ以上ない人選であるという点もまた参考になります。一度の日本一、二度のリーグ優勝という実績と、大谷翔平という前人未到の「二刀流」を育てたという指導者としての栗山監督の功績の大きさから、後任が正統派の監督では荷が重いという感すらあったわけです。
しかし、新庄氏のような一見奇抜に思われるタイプは前任者と比較対照されにくい人選であり(実際の新庄氏は前述のとおり、オーソドクスな理論派のようですが)、後任も非常にやりやすいという点でなかなか揮った人選であったといえそうです。
この点は、企業経営で長期政権後の後任社長を決める際にも、大いに参考になる人選方法ではないでしょうか。
いずれにしましても、年明けのキャンプイン以降、「新庄フィーバー」でプロ野球報道が盛り上がるのは必至でしょう。マネジメントの観点からも、引き続き注目していきたい人物です。(大関暁夫)