テーパリング開始! 緩和マネーの減少で国債利回りは上昇、株式相場は下落? 米FRBの真価問われる

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   米連邦準備理事会(FRB)が、現在実施している量的緩和を段階的に縮小する「テーパリング」に、2021年11月から着手する。

   コロナ禍を受けた異例の大規模な景気支援策の縮小に方向転換する。ただ、足元でインフレが加速。FRBのパウエル議長は、高インフレがいずれ落ち着くとして、「いまは利上げのときではない」と強調するが、市場の利上げ圧力が強まる可能性もある。緩和マネーにどっぷり漬かってきた金融市場を、どう混乱なく軟着陸させられるか、FRBの真価が問われる。

  • 米FRBは11月から、テーパリング(量的緩和の縮小)を開始する(写真はイメージ)
    米FRBは11月から、テーパリング(量的緩和の縮小)を開始する(写真はイメージ)
  • 米FRBは11月から、テーパリング(量的緩和の縮小)を開始する(写真はイメージ)

米国債など順調にいけば8か月で購入額はゼロに

   FRBは2021年11月2、3日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米国債などの資産購入の減額を決めた。

   新型コロナウイルスの感染拡大を受けて20年3月に量的緩和を再開し、米国債を月800億ドル(約9兆円)、住宅ローン担保証券(MBS)を月400億ドル購入しつづけてきた。これを11月から毎月の購入月額を米国債100億ドル、MBS50億ドルの計150億ドルずつ減らしていく。もちろん、経済情勢の変化により、杓子定規に実施はしないが、順調にいけば8か月で購入額はゼロになり、22年6月でテーパリングは終わることになる。

   政策金利について、FRBは今回のFOMCで、短期金利の指標であるフェデラルファンド金利(FF金利)の誘導目標を0~0.25%に据え置き、ゼロ金利政策の維持を決めた。テーパリング完了後、金利をどうするかが次の焦点になる。ゼロ金利という非常時の政策からの脱却を目指すことになるが、FRBは早期利上げには慎重な姿勢を示している。

   FRBの総資産は現在、8兆ドルを超え、この1年半で倍増した。テーパリングで徐々に購入を絞ってもいきなりゼロにするのではなく、またすでに保有している資産を直ちに売却するわけでもなく、ゼロ金利は維持するため、当面は緩和的な金融環境が続く。

止まらぬインフレ 米消費者物価の上昇率は6%超!

   金融緩和は市場にお金を溢れさせ、資金を借りやすくし、経済を活発化させる効果がある一方、物価上昇、ひいては資産バブルといった副作用をもたらす。

   2008年のリーマン・ショックや、今回のコロナ禍など非常事態に世界の中央銀行が経済の落ち込みを回避しようと、利下げや量的緩和を進める。一度始めた緩和策は「麻薬」的な効果があるため、止めるのは容易でないのが一般的だ。

   それでも、過度の副作用が生じないよう、経済状況をみながら、緩和の縮小・利上げに向けて慎重に政策の修正を各中央銀行は取り組むことになる。

   現在の局面で、特に判断を難しくしているのがインフレの進展だ。FRBは消費者物価の上昇率の目標を2%としているが、ここ半年、毎月前年比5%以上上昇。10月は6.2%と1990年11月以来31年ぶりの6%台を記録している。これには、さまざまな要因が絡んでいるとされる。

   コロナ禍で急激に景気が落ち込んだ2020年から、21年は欧米や中国を中心に感染の鎮静化で経済活動が活発化し、落ち込んだ需要の急回復で石油、液化天然ガス(LNG)、半導体など資源や物資の供給不足で物価が世界的に上昇しているのだ。

   米国ではコロナ禍による労働市場の混乱もあって、人手不足が深刻化していて、たとえばトラック運転手が足りずに物流が滞り、物資や製品の不足に拍車をかけているといった問題もある。

   物価は抑制したいが、引き締めが行き過ぎると経済を急激に冷やす恐れがある。特に今、株式市場は緩和マネーで高値を追い、11月8日の米ニューヨーク株式相場のダウ工業株30種平均は前週末終値比104ドル高の3万6432ドルと、史上最高値を更新。ところが、消費者物価指数が6.2%上昇したことを受けて、10日には240ドル下げるなど、やや神経質な動きになっている。

   テーパリングは金融の緩和を徐々に止めていくので、すぐに金融を引き締めるものではないが、緩和の終わりの始まりではある。一般に、FRBが国債の購入を減らせば国債の利回りに上昇圧力がかかり、株式市場も下落圧力がかかりかねない。

世界では「異質」日銀のマイナス金利政策

   金融市場はテーパリングまでは織り込み、その先にあるゼロ金利の解除、つまり利上げの行方を注視している。この点、FRBは慎重だ。ゼロ金利の維持を決めたが、今回のFOMCを終えて発表された声明で、従来「一時的」とみてきた物価上昇について「一時的と見込まれる」と表現を弱め、長期化する可能性を示唆したのは、物価上昇がしばらく続いても、利上げを急がないとの考えを市場に伝えたとみられている。

   金融市場は今のところ、22年中に2回程度の利上げをするとの見方がコンセンサスだといわれる。テーパリングが順調に6月までに終わっても、直ちに利上げはせず、秋以降に物価や株式市場などの動向を見ながら判断していくということで、市場もこうしたFRBの姿勢を評価している。

   ただ、物価が高騰を続ければ、インフレ抑制のため、利上げが早まる可能性があり、予断を許さない。

   他方、米国の金融政策は世界経済に影響する。特に外国為替相場を通じて響く。FRBが大きな方向として利上げに向かっていけば、世界のお金は金利が高く、安定した通貨に向かいやすいので、基本的にドルが高くなる方向に作用する。

   ドル高の裏返しとして自国通貨が安くなると、輸入品が値上がりしてインフレになるため、対抗して利上げを迫られる国が出てくる。ただ、利上げは景気を冷やす効果があるので、経済活動が落ち込み、失業が増えるなどのマイナスもあり、途上国を中心に難しい経済運営を迫られることになる。場合により、経済危機に陥る国も出かねず、それが世界経済を不安定化させる恐れもある。

   その中で、日本は物価がなかなか上がらない状況が続き、日本銀行が続けるマイナス金利政策は世界でも特異になりつつあるが、ここにきて資源高と円安で企業物価は急上昇している。今のところこれによるコスト増が製品にどこまで転嫁され、消費者物価が上がっていくのか、不透明だが、日銀も難しい金融政策のかじ取りを迫られる。(ジャーナリスト 岸井雄作)

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