電子部品大手、TDKの株価が2021年11月2日に一時、前日の終値比470円(11.4%)高の4595円まで上昇した。
前日取引終了後に発表した2021年9月期中間連結決算(米国基準)と2022年3月期連結業績予想の上方修正の内容が、自動車向けなどの好調を受けて業績改善を示したことで、投資家の買いを集めた。
2日の安値が1日の高値を165円も上回り、チャート図に大きな「窓をあける」姿を描く、株価の節目になった。株価は年初から低落基調にあったが、反転のきっかけとなる可能性もある。
EV化で関連部品の搭載点数が増加
それでは発表内容を確認しておこう。まず、業績予想の上方修正だが、売上高は従来予想より2000億円増の1兆8000億円(前期比21.7%増)、営業利益は70億円増の1570億円(40.8%増)、最終利益は100億円増の1100億円(38.6%増)とした。
TDKは上方修正の理由として、世界で自動車の電動化が進んでいることで、関連部品の搭載点数が増えていること、需要家のあいだで部材の在庫確保の動きが強まっていることを挙げた。
また、ノートパソコンやタブレット端末の堅調な需要が継続し、高速通信規格「5G」関連の需要も引き続き強いことが、リチウムイオン電池やセンサーなどの販売を拡大させる、としている。
自動車向けなどの好調を受け、22年3月期の研究開発費を従来の計画より200億円増やして1600億円とすることも発表した。同時に期末配当予想を36円と4円引き上げたことも株価急伸を呼び込んだ。
中間決算も好調だった。売上高は前年同期比29.4%増の8941億円、営業利益は28.2%増の800億円、最終利益は61.6%増の682億円。野村証券は中間決算を受けたリポートで「収益性改善が予想以上の好決算」と評価。その背景として、主力事業であるリチウムイオン電池の材料価格高騰分の価格転嫁が進んだことを挙げた。
くすぶるリスク要因は......
野村証券は電池の成長性などを評価し、目標株価を100円引き上げて6800円とした。SMBC日興証券は決算後のリポートで「印象はややポジティブ」と指摘。これまで赤字だったセンサー応用製品が7~9月期(第2四半期)に黒字化を果たしたことを「好印象」と記した。手がけるほぼすべての分野について、業績が改善している格好だ。
ちなみにTDKの海外売上高比率は9割を超えており、売上高全体の過半を中国向けが占める。中国経済は失速しているとはいえ、なお成長率が5%近くあり、TDKの中国向け売上高も伸び続けている。
ただ、TDKが通期業績の上方修正の理由に挙げた需要家による部材の在庫確保の動きは収束する可能性があるとの見方も出ている。
半導体不足などサプライチェーン(供給網)が乱れたため、完成品メーカーなどが部材在庫を積み増しているが、そろそろ通常モードに戻る可能性が出てきているためだ。在庫積み増しの反動で顧客の在庫調整による受注減も現実味を帯びており、この辺りが来期のリスク要因となりそうだ。
(ジャーナリスト 済田経夫)