人類は新しい道具の出現とともに情報過多に悩んできた【テレワークに役立つ一冊】

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   11月は総務省の「テレワーク月間」。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、一気にテレワークが浸透したが、新規感染者の減少とともに再び職場に通勤する人が増えてきた。しかし、テレワークの大きな流れは止まらないと見られる。今月は、テレワークや電話、コミュニケーションに関連する本を紹介しよう。

   コロナ禍で浸透したテレワーク。便利さを享受する一方で、パソコンやスマートフォンに接続する時間が増え、ストレスを感じるようになったと感じている人も少なくない。本書「つながらない生活」の副題は、「『ネット世間』との距離のとり方」だ。

   いかにして、ネットの世界といい距離を保ちながら、仕事と生活を送るのか、その秘訣を明かしている。コロナ禍の前にアメリカ人ジャーナリストが書いた本だが、今こそ読まれるべき内容に満ちている。

「つながらない生活」(ウィリアム・パワーズ著、有賀裕子訳)プレジデント社
  • 「ネット世間」と、いかに距離を置くか……(写真はイメージ)
    「ネット世間」と、いかに距離を置くか……(写真はイメージ)
  • 「ネット世間」と、いかに距離を置くか……(写真はイメージ)

便利さと引き換えに忙しくなった

   著者のウィリアム・パワーズ氏は、ワシントン・ポスト紙の元スタッフライター。メディア、テクノロジーなど幅広いテーマで執筆しているジャーナリストだ。本書はハーバード大学のフェローとして行った研究に基づいている。原著は2012年に出版され、アメリカでベストセラーになった。10年近く前の本だが、少しも古びたところはなく、先見性を帯びている。

   序章で、通信機能が付いたデジタル機器(著者は「スクリーン」と呼んでいる)の登場によって、便利さと引き換えに、以前よりもずっと、ずっと忙しくなったことを「頭痛の種」と書いている。メール、携帯メール、ブログ、検索......。新しいツールが次々に登場し、それらから届く情報をさばこうとすると、とにかく手間暇がかかる、とぼやいている。

   本書がユニークなのは、人類は新しい道具が登場するたび、今日と同じように「忙しい、情報が多過ぎる、どうにも落ち着かない」といった問題に直面してきた、と人類の歴史の中に問題と解決策を探っていることだ。そして、こう訴えている。

「デジタル世界の新たなる哲学、つまり、より健全で幸せな暮らしへの扉を探すには、過去にヒントを求めるのがもっともよい」

「紙の手帳はいっさい情報を押しつけてこない」

   過去についての検証がパート2に充てられている。今と同じように、テクノロジーをめぐる狂騒が繰り広げられた7つの混乱期を取り上げている。そして、それぞれの章で、一人の思想家に着目している。

   登場するのは、プラトン、セネカ、グーテンベルク、シェイクスピア、フランクリン、ソロー、マクルーハンの7人だ。彼らは当時の「ツール」について深く考えを巡らせ、しかもそれらツールの多くは現在も使われているというから驚きだ。

   たとえば、シェイクスピアは「ハムレット」の中で、このデンマークの王子に手のひら第の気の利いた道具(ガジェット)を与えた。それは「手帳」だ。手帳はルネサンス期のイギリスで今のスマートフォン波に流行していたという。

   手帳には、以下のような数多くの用途があったことが、最近の学術論文に書かれている。

「詩、注目すべき警句、新語の覚書。説話、法的手続き、議会の論戦の記録。会話、レシピ、治療法、ジョークのメモ。家計管理や入出金記録。住所や会議の備忘。旅行時の通関記録」

   すでに印刷物が流通していた耳朶に、手書きの手帳が流行したのは、一度書いた中身を消して何度でも使えたのが大きい、と説明している。「押し寄せてくる、あるいは往々にしてそう見える膨大な人や情報を、押し戻す役割を果たしたのだ」。

   著者は現代においても、手帳のメリットをこう書いている。

「スクリーンは24時間休みなく言葉、画像、動画、音声を浴びせつづけるが、紙の手帳はいっさい情報を押しつけてこない」

   必要な情報だけを自分で選択し、頭の中に入れることができるのだ。

「つながり断ち」7つのヒント

   そして、無理のない「つながり断ち」7つのヒントを、前章で紹介した7人の名前とともに、挙げている。

1 プラトン <距離> スクリーンを手放す時間を持つ
2 セネカ <内面の探究> スクリーン上での世間とのつながりを最小限に抑える
3 グーテンベルク <内省のためのテクノロジー> ワイヤレス接続をオフにする
4 シェイクスピア <古きよき道具> 手帳やノートを利用する
5 フランクリン <前向きな儀式> スクリーン禁止時間を設ける
6 ソロー <内面を大切にするための場所> ネットにつながらない空間を設ける
7 マクルーハン <地球村から自分村へ> 地元など身近なものに関心を持つ

   著者はこれらをヒントに「インターネット安息日」を家庭につくった。金曜日の就寝時にモデムの電源を切り、土日はオフラインの生活を送るようにした。ただし、携帯メールだけは残したという。最初は慣れず、仕事での不都合も生じたが、しだいに慣れ、家族の団欒の時間が増えた週末を楽しんでいるという。また、外で過ごす時間が増え、近隣の人々と会ったり、自然を楽しむようになったりしたそうだ。

   そして、紙の新聞と手帳が、さらに「役に立つもの」になった、と結んでいる。

   読み終わり、スマートフォンを利用する時間が増えたことの弊害を何度となく、ネットニュースに書きながら、ネット漬けになっている自分が見えてきた。とりあえず、手書きの手帳をもっと活用することから、「つながらない生活」を実践しようと思った。

(渡辺淳悦)

「つながらない生活」
ウィリアム・パワーズ著、有賀裕子訳著
プレジデント社
1870円(税込)

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