衆院選での勝利を受けて、晴れて第101代の内閣総理大臣に選出された岸田文雄氏。安定多数の議席を手に入れた岸田内閣の船出は安泰かと思いきや、いきなり「10万円給付」という新たな火ダネに直面しているようです。
もともとは、コロナ禍での支援策として公明党が選挙公約にうたっていたものですが、対象や支払い方法をめぐって賛否両方の声が聞こえてきます。「バラマキ」批判もつきまとうこの「10万円問題」を、英語で話してみましょう。
海外メディアは「生活支援」より「景気対策」とバッサリ
岸田文雄首相の最初の打ち出しとなった「10万円給付」。どちらかと言うと、公明党に押し切られる形で、異例のスピード決着となりました。
Japan to give children aged 18 or younger 100,000yen in cash, vouchers to boost economy
(日本政府は、経済政策として18歳以下の子どもを対象に10万円の現金とクーポンを給付することにした:ロイター通信)
ロイター通信のこの英文は、短いなかにぎっしりと「使える英語」が盛り込まれています。
まず、「10万円を支給する」は、動詞「give」を使って「give~100,000 yen」(~に10万円を支給する)としています。
例文では、対象が「children aged 18 or younger」(18歳かそれ以下の子ども)だと丁寧に伝えていますが、シンプルに「children」(子ども)として、「Japan to give children 100,000yen」でも十分です。簡単な英単語だけで「肝心なこと」を伝えることができる好事例です。 ◆ 支払い方を伝える「in cash」と「voucher」
これもよく使う表現ですが、「現金で払う」は「in cash」です。前置詞の「in」とセットで覚えておきましょう。
「クーポン」については、例文のように「voucher」(バウチャー)という単語を使うメディアが多かったですが、「coupon」(クーポン券、券)を使っているところもありました。どちらでも意味は同じです。 ◆ 「景気対策」は「boost economy」
「boost」は、「活性化する、勢いづかせる」という意味で、ビジネス英語でよく使われます。「boost economy」は「経済を後押しする」つまり「景気対策をする」ということです。
それにしても、皮肉なのは海外メディアの「見立て」です。自民党と公明党は、今回の「10万円給付」は「コロナ禍で困窮した家庭の支援策」としていますが、ロイター通信に限らず海外メディアはおしなべて「景気対策だ」とバッサリ。岸田政権のホンネは見透かされてしまったようです。
公明党は「ブランケット」案、自民党は「帽子をかぶせた」
本来であれば、新政権の「目玉政策」となるはずの「10万円給付」ですが、先日、日本経済新聞社が実施した世論調査によると、「18歳以下への10万円給付」を「適切ではない」と回答した人が67%にのぼるなど、第2の「バラマキ配布」を懸念する声が高まっています。
こうした批判を打ち消すように、親の年収が960万円以上の子どもを給付対象から除く「所得制限」を設けると発表されました。
Japan coalition agree on income cap for stimulus payments
(日本の連立政権は、給付金に所得制限を設けることで合意した:ロイター通信)
「所得制限」にあたることばは「income cap」です。「income」は「所得」、「cap」は「帽子、ふた」という意味の単語ですが、「cap」を動詞で使うと「蓋をする、制限をする」という意味になります。ちなみに「年収960万円の所得制限」は、「a 9.6 million yen annual income cap」です。 ◆ 大判振る舞いは「ブランケット」!?
ロイター通信は記事のなかで、公明党はもともと「blanket 100,000 yen cash」(包括的な10万円支給)を要求していた、と伝えています。「blanket」は「毛布」のことですが、毛布を大きく広げるイメージから「対象範囲が広い」という意味で使われます。「大判振る舞い」といったニュアンスが込められているようです。
「blanket」(大判振る舞い)な給付金の先輩と言えば、「アベノマスク」に代表される安倍元首相のコロナ対策が思い浮かびますが、そこは海外メディアも忘れていない様子。今回の「10万円給付」報道でも、
「Prime Minister Shinzo Abe gave a 100,000 yen blanket handout」(安倍晋三首相は10万円を広範囲に配布した)
と、しっかり押さえていました。
誰にでも一律10万円を支給した安倍元首相に比べたら、一応「960万円の年収」で「cap」をかける岸田首相の方が賢明に映るかもしれません。
今のところ、「10万円」は年内に現金(cash)で5万円を先行給付し、来春の入学シーズンに向けて5万円分のクーポン(coupon、voucher)を配布するようですが、この二段階方式についても、海外メディアは「it comes ahead of an upper house elections next summer」(来年夏の参議院選挙に向けて)支払われると報じています。
欧州を中心に新型コロナウイルスの感染が急激に再拡大するなか、国民の困窮よりも選挙や景気対策を優先するように映る岸田政権。コロナ対策で失脚した安倍・菅内閣の二の舞は避けてもらいたいものです。
(井津川倫子)