コロナ禍で部品調達網(サプライチェーン)が目詰まりを起こし、完成車の減産を余儀なくされている自動車業界。トヨタ自動車でさえ例外ではないが、2021年11月4日に発表した22年3月期連結業績予想は、意外にも利益を上方修正した。
それでもトヨタ幹部は「実質下方修正」と言う。どういう「からくり」になっているのか――。
大きかった円安効果
減産の引き金となったのは、東南アジアでの新型コロナウイルスの感染再拡大だった。2021年8月以降に現地の部品工場が相次いでストップした結果、完成車工場に届く部品が滞り、9月から10月の生産台数は前年同月比で3~4割減の水準まで大きく落ち込んだ。
だが、11月からは部品調達がほぼ正常化しており、2022年3月まで前年同月を上回るペースで生産のピッチを上げる。その結果、2022年3月期トータルの生産台数(トヨタ、レクサスの両ブランド合計)の見通しは900万台と、当初の930万台からやや少ない程度になりそうだ。販売台数も960万台から940万台に下方修正したが、コロナ禍で世界の経済活動が一時停止した21年3月期の908万台は上回るとしている。
もともと、コロナ禍からの経済回復で、世界的に自動車需要は旺盛だ。減産によって新車の供給が滞った余波で、中古車の価格まで押し上げられる現象が世界各地で起きている。その結果、需給が引き締まり、トヨタがディーラーに渡して、ディーラーが値下げの原資にしている販売奨励金について、北米を中心に抑制できたという思わぬ効果もあった。
こうした要因があり、2022年3月期連結業績予想についてトヨタは、当初は2兆3000億円と見込んでいた最終利益を2兆4900億円(前期比11%増)に、2兆5000億円と見込んでいた営業利益を2兆8000億円(前期比27%増)に、それぞれ上方修正した。
売上高に相当する営業収益の見通しは30兆円を維持した。それでも「実質下方修正」(最高財務責任者の近健太取締役)と言い切るのは、円安の恩恵が大きかったからだ。
トヨタが当初の予想で前提とした為替レートは1ドル=105円、1ユーロ=125円だったが、今回の業績予想修正は1ドル=110円、1ユーロ=128円で練り直した。世界生産台数の3分の1を日本国内で賄い、多くを輸出しているトヨタにとって円安の効果は大きい。
営業利益の業績修正のうち為替変動の影響はプラス4300億円。つまり、上昇修正した3000億円分を上回っており、増えた原材料費を円安効果で吸収した格好だ。
高まる自動車需要、人気車種は出せば売れるけど......
ちなみに、トヨタが上方修正を発表した翌11月5日、ホンダは2022年3月期連結業績予想を売上高、利益ともに下方修正した。21年8月時点で485万台としていた通期のグループ四輪販売台数見通しについて、部品の半導体が不足しているため、420万台に引き下げたからだ。
2021年4~9月の世界生産台数ではトヨタや日産自動車は前年同期より増加したが、ホンダは減少しており、部品調達網の影響を受けやすい体質が露呈した。
日産自動車も9日、2022年3月期の世界販売見通しを従来の440万台から60万台引き下げ、380万台にすると発表。半導体不足や東南アジアの部品調達難で大幅な減産を強いられているためで、売上高予想も大幅に下方修正した。
最終利益予想は、減産による新車の供給不足で逆に北米などの販売奨励金を抑制できることから、当初の600億円から1800億円に引き上げたが、水準は依然として低い。
トヨタ幹部が「実質下方修正」と言い放ったのも、他社と比べても、地力への自信を踏まえた余裕の発言ということだろう。自動車需要は世界的に高まっており、人気車種を出せば売れる状態。期末までに挽回する生産台数次第で、トヨタの真の実力が示される。(ジャーナリスト 済田経夫)