アフターコロナでもオフィスは重要
決断を早くする、すぐに始める。すぐに修正する。こうしたスピード経営の例として、アイリスオーヤマやセンサー・測定機器大手のキーエンスを挙げている。「他社が参入してきたときには、もうそこにはいない」とよく言われる。また両社は、「決断からリリースまで」の仕組み化も徹底されているという。
新しいニーズをすぐに製品化して、一番乗りで売れるように、現場やお客さまを近くで観察し、ニーズを発見したら、すぐに集約して企画・開発が動き出すような組織体制・仕事のやり方が整備され、確立しているのだ。
面白いと思ったのは、第3章「日本と日本企業が変わるべき姿」で、オフィスの重要性を説いていることだ。コロナ禍でリモートワークや在宅勤務が進んだが、今後もオフィスは必要だ、という。オフィスの機能として重要なのは、利益の源泉たる「何をつくるか」「何を伝えるか」というアイデアを生むことだ。
クリエイティブな議論に必要不可欠なのは「直接」の対話であり、ビデオ会議ではダメだというのだ。そして、高収益企業が「いいオフィス」に力を入れていることを紹介し、オフィスが人材の採用に大きな力を持っている、と力説する。
では、地方の企業に望みはないのか――。じつは別所さんは大都市以外にも拠点を持つ企業の今後に注目しているという。高価格帯を中心とする秋田県の酒蔵・新政酒造の例を挙げ、8代目の佐藤祐輔さんによる革新を紹介している。
東京大学を卒業し、家業を継ぐまでジャーナリストだった佐藤さんが、日本酒文化をこれまでと違う視点でとらえていること、都市に住む人々の文化への深い洞察が、独特のデザインなどに表れていると評価している。「いる場所が変わっても、情報と文化の大原則は変わらない」というのだ。
コロナ禍で地方への移住・転職を検討している大都市圏の優秀な人材がいる今こそ、地方企業のチャンスだと考えている。
最終章で、別所さんはデジタル化について予測し、今後、スマートフォンからスマートグラスへの移行が進むと見ている。この変化は「PCからスマートフォンへ」以上の革命だという。「いつでもどこでもネットに接続している」デバイスの登場で、検索力がこれまで以上に発揮され、ビジネスにも変化が起きると見ている。そして、中小企業から、2020年代を突き抜けて繁栄していく次世代の会社=「ネクストカンパニー」が生まれると鼓舞している。地方の中小企業の若き経営者に読んでもらいたい本だ。
「ネクストカンパニー」
別所宏恭著
クロスメディア・パブリッシング発行、インプレス発売
1628円(税込)