「子育て世帯とそれ以外の世帯を明確に分断している」
ヤフーニュースのヤフコメ欄では、エコノミストで経済評論家の門倉貴史氏が、こう批判した。
「所得制限が960万円以下であれば0~18歳の子どもがいるほとんどの世帯が給付金を受け取れるので、子どものいる世帯への一律給付とほぼ同じだ。結局、今回の給付金制度では、困窮度合いは考慮せず、子育て世帯には現金やクーポンを給付して、それ以外の世帯や独身者には給付はしないことになり、(公明党の山口代表が)『親の収入によって子どもを分断するのはよくない』と言いながら、子育て世帯とそれ以外の世帯を明確に分断していることになる。
また、現金とクーポンに分けて支給するのも給付手続きを煩雑にするだけで非効率だ。クーポンは全額使うから消費喚起効果が大きく、現金は貯蓄にも回るので消費喚起効果は小さいと思われがちだが、実際にはクーポンを使った分、もともと使う予定だったお金が貯蓄に回ることになるので、現金給付でもクーポン配布でも消費喚起効果に大きな違いはない。現金とクーポンに分けても政策効果は0?18歳に一律現金10万円を支給するのと同じだ」
明治大学公共政策大学院専任教授で社会福祉研究者の岡部卓氏も、こう指摘した。
「今回の合意は、名目上『所得制限』を課しているが、ほとんどの有子世帯に給付が行き渡ることになるため事実上一律給付といってよい(ただし、18歳以上の者、子どものいない者、一定所得以上といわれている者は排除している)。
結果的に、ほとんどすべての所得階層に18歳以下の子どもを持つ有子世帯に薄く一時的給付となっている。しかし、十分な給付水準とはいえず、コロナ対策としての経済対策として(福祉対策としても)、制度設計上(目的・対象・水準・政策効果等)からしてその体(てい)をなさない不十分なものとなっている」
経済対策を11月中旬にまとめる予定の岸田文雄首相にとって、公明党に所得制限を飲ませるかどうかは、「今後の指導力を見せつけるうえで正念場だった」と指摘するのは、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。
その意味では「形づくり」に成功したわけだ。熊野英生氏は「18歳以下10万円給付への所得制限~年内経済対策で問われる岸田政権の矜持~」(11月8日付)で、まずこう述べている。
「岸田首相にとっては、この問題は因縁がある。2020年春に岸田首相が自民党政調会長だったとき、(現金給付は)当初所得制限を設けて1世帯30万円にすると決定していたのに、土壇場で公明党が国民全員に1人10万円を唱えて、決定がひっくり返った事件である。現在は、経済環境は大幅に改善している。今、所得制限を付けないで、18歳以下の子どもがいる世帯すべてに給付金を配る必然性はない。
経済対策として考えると、給付金が消費支出に回ってこそ景気刺激になるが、子育て世帯は貯蓄率が高い。2020年の家計調査(勤労者世帯)では、未婚の子供がいる夫婦世帯の貯蓄率は41.2%である。子どものいない夫婦世帯の貯蓄率34.9%よりも6.3%も高い=図表参照。なぜ、18歳以下の子供がいる世帯を選んで、優先的に給付金を配るのか。子育て世帯の中でも経済的に苦しい世帯に絞ることが、なぜ正しくないのかはよく理由がわからない」
そして、熊野英生氏は「岸田政権は正念場を迎えた。首相のリーダーシップを発揮して、責任を持って必要度の高い政策を取捨選択してほしい」として、子育て世代の問題なら母子家庭を救うことに全力を傾けるべきだと、こう結んだ。
「気になるのは、母子家庭への対応だ。2019年の厚生労働省の調査では、18歳未満の児童がいる世帯の6.5%は一人親である。特に、母子家庭は貧困世帯が多い。母子家庭に対しては、給付金のみならず、さまざまなかたちでの貧困を抜け出す支援を追加してもよい。すべての子育て世帯を一様に支援するのではなく、母子家庭にはより手厚いバックアップが検討されてもよい」