東京証券取引所の現物株の取引時間が、2024年度後半をめどに、現在の午前9時~午後3時(途中1時間昼休み)から、午後3時半まで30分延長することになった。取引終了時間の繰り下げは1954年以来、約70年ぶりだ。東証は過去3回、取引時間の延長を検討しては証券会社などの反対で挫折しており、「4度目の正直」になった。
延長による市場活性化の期待が出ているが、実態としては2020年に起こしたシステム障害を奇貨として、障害発生時に取引時間を長く確保しておくことが大義名分になって実現するという皮肉な展開になった。
時間延長に「賛成」はネット証券だけ
東証を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)が2021年10月27日発表した。記者会見で最高経営責任者(CEO)の清田瞭氏は、
「レジリエンス(回復力)の向上だけでなく、取引機会の拡大、国際競争力の観点でも意義が」
と語った。
延長の理由とされるシステム障害は20年10月に発生。終日、売買が止まる前代未聞の事態になり、東証の宮原幸一郎社長(当時)が引責辞任した。その後、障害発生後に取引を再開する手順を決めたが、取引時間が長くなれば、障害の復旧後、その日のうちに取引できる可能性が高まることから、ふだんの取引時間そのものを延長する検討を進めていた。
延長の障害になってきたのが証券業界だ。証券会社の営業担当者は、取引時間終了後、顧客に注文の結果報告や新たな注文取りをするが、時間が伸びれば遅くまでかかり、労働時間は増え、人件費も膨らむ。
株式を組み込んだ投資信託も、基準価格は個別銘柄の終値が確定してから計算するので、取引時間が伸びた分、その後の作業が大変になり、翌日の新聞朝刊の掲載が間に合わないといった懸念もあった。
時間延長に賛成なのは営業マンがいないネット専業証券だけで、他は反対、慎重という構図だった。
東証は5月に取引参加者らを詰めたワーキンググループ(WG)を設置して検討。そもそも、取引所間の国際競争の観点から、時間延長だけでなく夜間取引導入や櫃休みの廃止なども進めたい考えだったが、今回は証券会社の強い反発を招く課題は除外し、時間延長に絞ることで一気に議論が進み、30分延長で合意に至った。
伸びる世界の株式市場、取り残される東証
やっとここまでたどり着いたが、それでも海外主要市場の取引時間に及ばない。東証の取引時間は11時半から1時間の昼食をはさみ、現在5時間。これに対して、米ニューヨーク(NY)市場やナスダック市場は6時間半、ロンドンは8時間半。アジアでもシンガポールが7時間と、東証の短さが際立つ。5時間半の香港にはようやく追いつくことになる。
取引時間だけが原因ではないが、上場企業の時価総額を2011年と20年を比べると、NYが11.7兆ドルから21.6兆ドル、ナスダックが3.8兆ドルから19.1兆ドル、中国・上海が2.3兆ドルから6.9兆ドル、香港が2.2兆ドルから6.1兆ドルと、それぞれ大きく伸ばしている。
東証も3.3兆ドルから6.7兆ドルへの倍増はしているが、NYやナスダックに差を開かれ、上海に逆転されている。
そこで30分延長して、どれだけの市場活性化の効果があるだろう。
「時間を延長するだけでは限界がある。海外から投資したくなるような日本企業が増やさなければ」
と、証券業界関係者は口をそろえる。
東証は、22年4月から現在の市場第1部、2部などの区分を組み換え、「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に再編する。なかでも、プライムは上場を維持する基準が厳しくなり、上場企業は自社の価値を向上させるため一段の努力が求められる。
政府が旗を振る成長戦略、なかでもベンチャー企業育成、上場企業の情報開示など日本経済全体の底上げ、体質強化、市場の透明性向上などと組み合わさることが、市場活性化の王道なのは疑いない。
取引時間も、その一助たり得る。たかが30分、されど30分。それが日本の株式市場復権のきっかけになるか、注視していかなければならない。(ジャーナリスト 白井俊郎)