情報のスペシャリストが言うんだから間違いない!? テレワークは地方を変える起爆剤になる【テレワークに役立つ一冊】

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   11月は総務省の「テレワーク月間」。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、一気にテレワークが浸透したが、新規感染者の減少とともに再び職場に通勤する人が増えてきた。しかし、テレワークの大きな流れは止まらないと見られる。今月は、テレワークや電話、コミュニケーションに関連する本を紹介しよう。

   先日、取り上げた「テレワーク導入・運用の教科書」(日本法令)で佐賀県庁のテレワーク導入を紹介した。県庁全職員約4000人が対象で、形態は在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィスがあり、「テレワークでどこでも県庁」を実現している。持ち帰り対応回数は約49%減少、復命書作成時間は50%削減、直帰できる率は、ひと月あたり16%から28%と75%向上という実績を上げた。

   その立役者が当時、佐賀県庁の最高情報統括監(CIO)だった森本登志男さんだ。森本さんが書いた「あなたのいるところが仕事場になる」を読むと、テレワークは地方を変える起爆剤になることがわかる。

「あなたのいるところが仕事場になる」(森本登志男著)大和書房
  • テレワークなら、どこにいても仕事ができる(写真はイメージ)
    テレワークなら、どこにいても仕事ができる(写真はイメージ)
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総務省テレワークマネージャーで地域情報化アドバイザー

   森本さんは京都大学工学部卒。宇部興産の後、ジャストシステム、マイクロソフトを経て、佐賀県最高情報統括監、岡山県特命参与(情報発信担当)など複数の自治体の職務に就任。総務省テレワークマネージャー、総務省地域情報化アドバイザーなど、中央省庁からの移植も受け、地方活性化、テレワークを活用した業務改革のため活動している。

   森本さんは、テレワークは、地方、企業、働き手に効果をもたらすと力説する。企業や働き手にとってのメリットは類書でも取り上げたので、ここでは、地方のメリットに焦点を当てて紹介したい。

   若者世代が都会に流出し、地方の人口は減る一方だ。地方からの企業の撤退や縮小は、工場や倉庫だけにとどまらない。地元のホワイトカラーの受け皿になっていた、大手企業の支店や営業所が、より大きな都市の拠点に統廃合されたり、規模を縮小したりする傾向にある。

   総務省地域情報化アドバイザーとして、全国の地方に足を運び、感じるのは「地域を盛り上げるのに、いったい何をすればいいのか」という、戸惑いと焦りにも似た気持ちだという。

   サテライトオフィスによる企業誘致は、地方の労働人口減少への対応、雇用創出につながる。また通勤に伴う消費資源量の抑制は環境負荷の軽減になる。

先進的な佐賀県庁のテレワーク導入

   佐賀県庁での取り組みも詳しく紹介している。佐賀県庁では2008年から全国に先駆けて在宅勤務制度を導入した。育児・介護中の職員を対象にスタート、最初は利用者が増えなかった。

   森本さんは2011年4月から2016年3月まで、任期付きの最高情報統括監として働いた。着任する直前の3月11日、東日本大震災が発生したことで、大規模災害発生時の業務継続や現場対応が全国的にもクローズアップされた。

   2014年10月に全県庁職員4000人分の仮想デスクトップ環境を用意することで、自分のデスクのパソコン以外の端末からでも、インターネット経由で自分の執務環境にアクセスできる環境を整えた。同時に約1000台のタブレット端末を各部門に配布して、全庁的にテレワークを始めた。

   導入3か月後に、鳥インフルエンザが発生したが、テレワークのおかげで関係者と情報を共有、国とのやりとりも迅速に行うことができた、と恩恵を感じたそうだ。

   また、県外の出張先からでも、県内の最寄りのサテライトオフィスからでも会議に参加できるようになった。職員だけではなく、県内各地から参加してもらう、さまざまな委員会でもテレビ会議システムが活用されるようになった。遠隔地の委員はライチョウすることなく、参加が可能になった。

   「テレワークが無かったら、去年で県庁を辞めている」という子育て中の女性職員の声も多かったという。

工場よりもサテライトオフィスの誘致を

   森本さんは、「工場誘致」から「サテライトオフィス誘致」へ考え方の転換を、と訴えている。一企業の単独の拠点、さまざまな企業が入るシェア・オフィスなど、サテライトオフィスは、製造業の工場や倉庫を誘致する場合に比べ、コストがかなり低く抑えられる。また、人口減少や経済活動の縮小などで空いた建物や、休眠施設などをオフィスに転用することもできる。

   新型コロナウイルスの感染拡大とともに、比較的感染が少ない地方で仕事をしたいという企業人と誘致をしたい地方自治体の思惑が一致し、さまざまなところで地方のサテライトオフィスは実現している。Uターン、Iターンによる人口増も期待されている。

   本書では、クラウドサービスを提供する米系企業、セールフォース・ドットコムが、和歌山県白浜町につくった「白浜町ITビジネスオフィス」を紹介している。2015年に開設、移住したメンバーのほか、3か月程度で東京に戻るローテーションを組んでいる。東京に比べ、案件発掘数が20%も高いなど生産性も上がったという。自由な時間が増えたため、地元で社会貢献活動をすることが、いい循環を生んでいる、と同社では見ている。

   このほかに福井県鯖江市、大阪府大阪狭山市、秋田県大館市などの取り組みを紹介している。テレワークは大都市の企業を対象にしたものを思っていたが、その受け皿は地方でもいい。いや、地方の方が日本全体のためには効果がある、と本書を読んで痛感した。

   まさに、「あなたのいるところが仕事場になる」のである。(渡辺淳悦)

「あなたのいるところが仕事場になる」
森本登志男著
大和書房
1870円(税込)

 
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