詐欺師は次々と新たな手口を考えるものだが、基本は「儲かる」か「安くなる」かのどちらかだ。
ちょっと前まで、電話料金のインターネット回線をめぐっては「光回線サービスを安くできる」と騙す方法が目立ったが、最近は「光回線からアナログ回線に戻すと安くなる」という手口が横行している。
あまりに被害が多いので、2021年11月1日、総務省が注意喚起の文書「光回線サービスの電話勧誘トラブルが多く発生していいます」を、ホームページに載せた。いったい、どんなふうに騙すのか――。
「NTTには自分で回線変更の手続きをするように」
総務省のホームページなどによると、光回線を解約してアナログ回線に戻す「アナログ戻し」をめぐる相談が全国で相次ぎ、直近の1年間だけで約1700件に達することがわかった。
NTTの関連会社を装った電話で「料金が安くなる」と勧誘し、契約後にさまざまな名目の手数料を請求するのが共通した手口だ。
具体的には、「NTT加入電話切り替えサポートセンター」「NTTの工事代理店」などを名乗り、「インターネットを利用していないのならば、アナログ電話に戻したほうが、電話料金が安くなる」と持ち掛ける。
そして、アナログ回線への契約変更をうながし、「サポート費用」などの名目で毎月数千円の支払いや、初期費用として数万円の「手数料」「工事費」などを請求する。消費者が不審に思い契約を解除しようとすると、高額な違約金を要求するといった案配だ。
電話のやりとりだけで契約が成立する場合もあるから厄介だ。
NTT東日本と西日本も、「NTTから『アナログ戻し』を呼びかける営業電話はしていない。アナログ回線に戻す手続きの希望者は、直接NTTに申し込んでほしい」と、ホームページで訴えている。
詐欺の手口は、次のようなケースが代表的だ。
【事例1】
「NTTの関連会社を名乗る事業者から、『今、インターネットを利用しているか?』と電話があった。「以前息子が利用していたが、現在は誰も使っていない」と答えると、『電話をアナログ回線に戻せば、インターネットの料金が不要になるので毎月の電話代が安くなる』と言われた。安くなるならと思い、契約した。
後日届いた契約書を見ると、聞いたことがない事業者の名前が書かれ、『生活相談サポートサービス』を契約したとして、毎月5000円を支払うことになっていた。また、NTTには自分で回線変更の手続きをするように、と書かれていた。不審に思い、NTTに問い合わせると、まったく関係のない事業者とわかったため、契約を破棄したい」
【事例2】
「NTTのサポートセンターを名乗る事業者から『電話を光回線からアナログ回線に戻さないか』と電話があった。今は誰もインターネットを使っていないので、ちょうどいいと思い契約した。しかしその後、毎月サポート料金として3000円が引き落とされていることがわかり、確認すると1年縛りでサポート契約をしているとのことだった。解約を申し出ると、今解約するとキャンセル料が発生すると言われた」
数年前までは、「インターネットの光回線を安くする方法がある」と持ち掛ける詐欺が横行した。しかし、光回線が行き渡ると、今度はインターネットをあまり使わない高齢者を狙った「アナログ戻し」という新手の詐欺が始まったわけだ。
実際、アナログ回線に戻すことでインターネットの基本料金が不要となり、電話代を低く抑えられる可能性があるからだ。
総務省や国民生活センターでは、こう注意を呼び掛けている。
(1)NTTの名前を出していても、関係のない事業者が勧誘をしているケースが多いので、事業者名をしっかり確認する。
(2)すぐに契約しない。家族や公的機関と相談する。あいまいな返事をすると、契約したことにされるので、不要な勧誘はきっぱり断る。
(3)光回線をアナログ回線に戻す場合には、直接NTTや回線事業者に問い合わせる。
電話で不用意に「はい」と返事をすると怖い結果に
また、ヤフーニュースのヤフコメでは、防犯の専門家がさまざまなアドバイスを寄せている。
防犯アドバイザーで犯罪予知アナリストの京師美佳さんは、こう呼びかけた。
「電話営業のすべての業者が悪徳なわけではないですが、なかには今回のような紛らわしい名前を使って関連会社を装ったり、電話で関連会社との関係を錯覚させたりする騙し方できっかけを作る業者もいます。
疑わしいサービスの勧誘があれば、即決せずに『検討します』と一度電話を切り、家族や友人に相談すること。相談する相手がいなければ消費生活センターの消費者ホットライン『188』(いやや)に相談してください。
とにかく一人で判断すると詐欺に引っかかることがあるので、相談する癖をつけること、即決しないこと。これは覚えておいてください。『本日中に入金が必要』などとせかす業者は悪徳が多く、絶対に信じないほうがいいです」
詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリストの多田文明氏さんも、こう注意した。
「今回は(これまでとは)逆に、アナログ回線に戻す手口です。基本的には過去の悪質な勧誘手法と同じ。電話関連の契約は複雑で素人にはわかりづらく、業者の話に巻き込まれがちです。この時、『はい』という言質を取るやり方が使われます。『ネットは使っていませんね?』『はい』と答えさせて話は進みます。電話越しでの『はい』の頷きは契約につながりますので、気をつけて下さい。
注意したいのは、過去に業者の勧誘で光回線に変更した人です。こうした人の名簿は悪質業者に渡っている可能性があり、繰り返し電話がかかる恐れがあります。特に高齢者が狙われやすいので、ぜひとも高齢の親御さんにも注意をしてあげて下さい」
(福田和郎)