家庭科ではなく、数学か社会で教えるべきだ
ところで、主要メディアのあいだでは、高校生に「金融教育」を導入することには賛同するものの、家庭科で行うことに対しては疑問を投げかけるところが少なくない。毎日新聞(11月3日付)「高校家庭科で『金融教育』一歩前進でも喜べない理由」で、渡辺精一記者はこう述べている。
「学校教育でパーソナルファイナンス(編集部注:個人資産管理)を担うのが、社会科ではなく、家庭科であることに違和感を持つ金融関係者は多い。そもそも家庭科担当教員で金融を得意とする人材は少ない。神戸大学の家森信善教授(金融論)らが2018年に高校教員1000人に行った調査によると、金融リテラシーの極めて基本的な三つの問題(インフレと実質金利、複利、分散投資)について、家庭科担当の教員で全問正解できたのはわずか5%と全教科中最低だった。最も高いのは政治・経済の担当教員で46%だった」
渡辺精一記者がもう一つ指摘するのが、家庭科が大学入学共通テスト科目にもない「マイナー教科」である点だ。
「学校現場では教員、生徒とも学習の動機づけは弱いという見方が一般的だ。こうした弱点を考えれば、教育効果を高めるには、専門知識を持つ金融機関など外部との連携は欠かせない。金融教育が実際に浸透するかどうかは、こうした連携もカギとなるだろう」
と結んでいる。
経済ニュースサイト「ダイヤモンド・オンライン」(10月27日付)の「高校で始まる金融教育、『2つの不安』とプロが本当に教えたい10の知識」で、経済評論家で楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元氏は、こう指摘する。
「率直に言って、金融教育は家庭科の範疇に収めて生徒に教えることに無理がある。金融的な意思決定にあって重要なことは二つあり、一つ目は正確に損得の判断をすることであり、そのための基礎は昔なら算盤、今なら数学だ。もう1つは、金融ビジネスや金融商品の仕組みであり、それを理解した上で個人や家計がどうしたらいいかを理解することだ。
適切な金融教育の一部は数学の応用問題の中で取り上げられるべきだろう。たとえば、大学入試に金融商品を比較する損得計算の問題が出るようになれば、将来、問題に出たような『損な金融商品』を選ぶ大人は激減するだろう。
もう一つ大事なのは、『金融ビジネスとはこのような構造になっていて、顧客からこのようにもうけている』という仕組みを理解させることだ。これは、政治経済のような社会科系の中で、世の中の仕組みとして教えることがしっくりくる」
そして、こう結ぶのだった。
「大きな不安の2点目は、家庭科の教師本人が、生徒に教えるべき内容を自分で理解できていないのではないかということだ。以下のような疑問に対して、家庭科の先生はどう説明するつもりなのだろうか。
(1)将来の利益予想と株価の関係を教えてください。株価ってどう決まるのですか?
(2)株式投資とFX(外国為替証拠金取引)にはどのような違いがあって、老後の資産形成のためにはどちらが有利なのですか?
両方とも、金融について興味を持っていて少し賢い高校生なら聞きそうな質問だが、明快な答えがある。(1)については、数学の教師なら説明すれば分かってくれるだろうし、(2)については政治経済の教師なら説明すれば理解できるだろう。
『金融的な判断ができる力』を家庭の運営スキルの一部だとして家庭科に押し込めてしまった文部科学省の判断が何とも残念だ」
(福田和郎)