トヨタ自動車が、SUBARU(スバル)と共同開発した電気自動車(EV)「bZ4X」の詳細を、2021年10月29日に発表した。メディアはこぞって速報。呼応してスバルも同日、bZ4Xの姉妹車となる「ソルテラ」の専用サイトを開設し、11月11日に中村知美社長が詳細を発表すると明らかにした。
トヨタ「bZ4X」、スバル「ソルテラ」とも、両社が日本、北米、中国、欧州など世界で発売する初の本格量産EV。いずれも2022年の年央までに発売される見通しだ。両社とも21年4月にbZ4Xとソルテラの概要を発表していたが、具体的なスペックを明らかにするのは、今回のトヨタが初めてだ。
トヨタ「bZ4X」価格未定も米テスラを意識?
じつは、トヨタはこれまでもEVを販売した実績がある。1996年と2012年にはRAV4のEVを限定販売し、2019年には中国でC-HRのEVを発売。2020年以降は中国と日本でレクサスUX300eも販売してきたが、いずれも「期間限定」か「地域限定」で、本格的なグローバル展開ではなかった。
今回のbZ4Xは、日本はもちろん、世界の主要市場で勝負する初の量産EVだ。従って、今回はトヨタの本気度が違う。世界で主流のSUVをEVで出すのは大手メーカーのトレンドとなっている。トヨタがスバルと組んだのも、SUVで重要な4WD技術を学ぶ必要があると判断したからだろう。
ライバルの動きは慌ただしい。EV専業の米テスラは初の量産モデル「モデル3」をベースにSUVの「モデルY」を開発。日産自動車は同じくSUVのEV「アリア」を今冬に発売する。
これにトヨタのbZ4Xが加わる。テスラ・モデルY、日産アリア、トヨタbZ4Xはサイズも性能も価格帯も近く、強力なライバル関係になる。
bZ4Xのリチウムイオンバッテリーの容量は71.4kWh(キロワット時)で、航続距離はFFが500キロメートル前後、4WDが460キロメートル前後と発表された。
日産アリアは66kWhと91kWhのバッテリーがあり、66kWhの場合、航続距離はFFが450キロメートル、4WDが430キロメートル。同様に91kWhは610キロメートルと580キロメートルだ。
テスラは電池の容量を明らかにしていないが、モデルYの航続距離は標準仕様が480キロメートル、長距離仕様が505キロメートルだ。価格は日産アリアが660万円から。モデルYの国内販売はこれからだが、セダンタイプのモデル3は航続距離448キロメートルの標準仕様が454万円からだ。
日産が今冬に発売する660万円のアリアは上級グレードだという。このため日産はその後、標準グレードも発売し、「実質購入価格は約500万円からになる」と発表している。これは定価から政府や自治体の補助金を差し引いたユーザーの負担額という。
こう考えると、454万円のテスラ・モデル3は割安に見える。トヨタbZ4Xの価格は未定だが、アリアよりもテスラを意識した価格設定にせざるを得ないだろう。
「トヨタが本気を出せば、これぐらいのEVは簡単に作れる」
日米欧でSUVのEVモデルの開発は相次いでおり、独BMWは2021年7月、最新となる「iX」の量産を開始した。iXはトヨタのbZ4Xと同様、BMWがEV専用に開発した次世代本格EVだ。
iXのバッテリー容量は111.5kWhと76.6kWhの2仕様があり、航続距離はそれぞれ630キロメートル、425キロメートルとなる。性能的には日産アリアやトヨタbZ4Xのライバルになりそうだが、iXの日本での販売価格は1000万円を超えており、価格設定が別格だ。
トヨタはこれまでハイブリッド車(HV)や燃料電池車(FCV)の開発に注力し、「EV開発に出遅れた」などとメディアで批判されることが多かった。
日産、BMWのほか、フォルクスワーゲンなど世界の大手ライバルメーカーがEVに本格参入するなか、トヨタとしても手をこまねいているわけにはいかなかったのだろう。
今回の発表データを見る限り、トヨタのbZ4Xは先行するテスラや日産と互角か凌駕する性能を有している。HV開発で電動化の技術を蓄積してきたトヨタだけに、今回の発表で「トヨタが本気を出せば、これぐらいのEVは簡単に作れる」とライバルに言っているように感じた。
ただし、市場の評価はわからない。今冬の日産アリア、22年のトヨタbZ4Xは、この分野でテスラなど欧米メーカーと戦うことになり、日本メーカーの実力が示されることだろう。(ジャーナリスト 岩城諒)