石油元売り国内最大手のENEOSホールディングス(エネオスHD)が、再生可能エネルギーの新興企業「ジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)」(東京都港区)を買収する。
石油元売り大手による初の再生エネベンチャーの大型買収になる。世界的な脱炭素化の流れを受け、石油に依存した事業構造を転換し、再生エネ事業を本格的に拡大する橋頭保を築く狙いだ。エネオスHGが2021年10月11日発表した。
JREの株式を保有する米ゴールドマン・サックスとシンガポール政府投資公社(GIC)から、全株式を取得する。買収額は2000億円。22年1月下旬をめどに株式譲渡を実行する予定で、エネオスHGの22年3月期決算の業績にはほとんど影響しないという。
JRE、発電容量は原発1基分近く
JREは2012年創業の新興エネルギー企業で、2020年12月期の連結売上高は224億円、最終損益は9億1200万円の赤字。日本のほか台湾にも進出している。福島県では太陽光発電を、山形県では風力発電を手掛けるなど、国内外の発電容量は建設中の約46万キロワットを含めて計約88万キロワットと、原発1基分に近い。洋上風力にも積極的で、北海道や秋田県、長崎県で開発に向け調査を進めており、計画どおりに完成すれば、洋上風力の出力は計100万キロワットを超える規模になる。
エネオスHGに今回の買収を決断させたのは、第1に、国内の石油事業の先細りだ。ガソリンの国内需要は人口減少やハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)の拡大で、年に数%ずつ減少している。
第2に、環境への関心の高まりがある。世界ではエクソンが21年5月に開いた株主総会で「物言う株主」が推薦した環境派が取締役に選任された。英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルに対してはオランダ・ハーグの地方裁判所で、環境保護団体の主張に沿って、温室効果ガスの大幅削減を義務付ける判決が出されている。日本の世論も「脱炭素」の勢いが加速している。
こうした環境変化を踏まえ、エネオスHGは再生エネ事業の強化を目指し、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を出さない水素や合成燃料の実用化に向けた研究なども進めているが、事業構造の転換としては拡大が続く再生エネが中心になり、特に「時間を買う」という意味で買収・合併(M&A)が有効な手段になる。JREの再生エネ電源を、精製過程でもCO2を出さない「グリーン水素」をつくるため、フルに生かす狙いもある。
エネオス、脱炭素関連に4000億円を投じる方針
エネオスHGは23年3月期までの中期経営計画で、油田の権益などを売却して2200億円をねん出するなどして8600億円の戦略投資枠を設ける。うち脱炭素関連に4000億円を投じる方針を掲げ、すでに米国やオーストラリアでの太陽光、台湾の洋上風力など海外事業への参画を決めている。今回の買収は脱炭素枠の半分を充てる巨額投資だ。
JREの現状の売上高に比べて投資額が10倍近くと大きいが、成長性は高いと考えている。JREは太陽光発電所を多く持ち、政府の固定価格買い取り制度(FIT)の価格が下がる前の高単価で売れる権利を持つ発電所も多く、安定収益が見込めると評価した。
エネオスHGに限らず、石油元売り各社は同じような事業転換の課題を抱え、それぞれにさまざまな手を打ち始めている。
出光興産は太陽光を中心にバイオマスや風力、地熱と幅広い再生エネ電源を持ち、建設中の案件は国内にとどまらず、北米や東南アジアにも広がる。再生エネの発電容量は21年3月末時点で約50万キロワットだが、30年度までに約8倍の400万キロワットに伸ばす計画だ。燃焼時にCO2を出さないアンモニアを石炭に混ぜる火力発電事業も計画している。
コスモエネルギーHDは風力発電を新たな柱として力を入れている。陸上風力の発電容量は21年6月末時点で約30万キロワットだが、早期に50万キロワットまで引き上げる。洋上風力でも複数の案件を手掛けており、30年度までに陸上と洋上を合わせて風力だけで150万キロワット超に拡大することを目指している。
2050年に温室効果ガス排出の実質ゼロを掲げる政府方針を踏まえ、どのようなテンポでどのように化石燃料を減らし、再生エネを増やしながら収益を上げていくか、「最適解」求めて各社の模索が続く。(ジャーナリスト 済田経夫)