「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
「週刊ダイヤモンド」(2021年11月6日号)は、「脱炭素地獄」と題して、日本企業を襲う、さまざまな危機を特集している。日本は米欧中の強者に太刀打ちできるのか――。
一方、「週刊エコノミスト」(2021年11月9日号)は、「これから来る! 脱炭素 DX技術革命」を特集。「週刊ダイヤモンド」が負の側面をまとめたのに対し、「技術革命」がもたらす明るい側面に光を当てたのが特徴だ。
脱炭素シフトが強いるトヨタの苦しみ
週刊ダイヤモンドは、日本製鉄がトヨタ自動車を提訴、ソニーグループ、デンソーと台湾半導体TSMCのタッグ。この2つの大事件に共通しているのは、世界的な脱炭素シフトにある、と書き出している。
前者はゼロカーボン・スチールの壮絶な開発競争が底流にあり、「両社が生き残りを懸けた脱炭素戦争に直面していることの証左でもあるだろう」と見ている。
二酸化炭素(CO2)の排出量の多い製造業を代表するトヨタ自動車を例に、日本企業が脱炭素地獄に転落するメカニズムを解説している。その新たな「六重苦」とは――。CO2削減、経済安保、国内生産崩壊、輸出競争力「低下」、産業政策ゼロ、ゲームチェンジである。
国力を象徴する基幹産業である自動車。主要国や競合、モビリティー参入企業にとって、トヨタは戦いの土俵から引きずり降ろしたい「格好の標的」になっているという。トヨタの苦しみは、日本企業の苦しみであり、脱炭素地獄の帰結は、国内産業の空洞化である。
一方、後者の「日台半導体連携」はトヨタと経産省の思惑先行で誘致が決まった、と書いている。経産省がTSMC誘致で狙うのは「日の丸半導体」の復活である。大口需要家として担ぎ出されたトヨタによって、国内でにらみが利く半導体の製造拠点を持つことはサプライチェーンの安定化に寄与する。
企業が涙ぐましい脱炭素戦術に取り組んでいる。ソニー、ホンダ、ヤマトホールディングスなど10社の取り組みをまとめた一覧表が参考になる。脱炭素の戦術は多角的な取り組みの積み上げであることがわかる。
脱炭素シフトのワースト421社とベスト50社のランキングも掲載している。ワーストの1位はJ-POWER、2位は住友太平洋セメント、3位は太平洋セメント、4位は中国電力。下位にはエネルギーや素材関連企業が目立つ。
ベストの1位は任天堂、2位はリクルートHD、3位はサイバーエージェント、4位は電通グループ。上位陣にはサービス、情報・通信、医薬品関連企業が多い。
第2特集は、「ITベンダー&人材 大淘汰」。デジタルトランスフォーメーション(DX)の波をITベンダー業界は乗り切れるのか。DXの本質は、これまで顧客だった事業会社のIT企画・運用の内製化にあるからだ。
みずほ銀行のシステム障害で注目された「銀行勘定系システム」で大異変が生じているという。石川県金沢市に本店を置く北國銀行の新勘定系システムには自前のサーバーすらなく、同行の勘定系が存在するのは米マイクロソフトが提供しているパブリッククラウドAzureの上だというのだ。有店舗型の既存銀行の勘定系システムがクラウド上で動くのは、日本で初めて。
地銀再編の波はメインフレームの見直しとなり、ITベンダーの淘汰にもつながりそうだ。日本法人の社員が約1万8000人に急増したアクセンチュア急成長の秘密、日本のITベンダーを8つに分類したITベンダー図鑑などの記事が目を引いた。
日本にあった革命的技術
「週刊エコノミスト」(2021年11月9日号)は、「これから来る! 脱炭素 DX技術革命」と題して、脱炭素の「技術革命」がもたらす明るい側面に光を当てている。
日本政府は脱炭素とDXによる成長戦略を掲げる。その駆動力となる日本発の「革命的技術」を紹介。その中でも驚いたのが、NTTが省エネ・微細化の限界を突破した「光」半導体の実用化にめどを付けたというレポートだ。電子によるデータの処理と「光」による通信伝送をそれぞれ担う機能を接合させることで、消費電力を従来に比べて桁違いに効率化させると同時に、データ処理の超高速化への道を開く「光電融合」の技術だ。
これを中核技術として、ネットワークから端末、半導体などのデバイス群のすべてに光ベースの技術を導入し、従来にないサービスを実現する「IOWN」(アイオン)という構想を提唱している。NTTの澤田純社長は、「社会に変革を促すゲームチェンジになるだろう」と話している。日本の半導体復活の最後の好機、という見方もあり、期待がふくらんだ。
矢部孝・東京工業大学名誉教授が発明したマグネシウムを使った次世代電池も製品化にこぎつけた。マグネシウム電池はすでにあるが、先行品とは桁違いの性能があるという。また、マグネシウムは海水から無尽蔵に取り出すことができるため、再生可能エネルギーの理想的な循環社会が実現する可能性もある。
このほかに、京都市のロボットベンチャー「テムザック」が開発した一人乗り電動車両「ロデム」など、国産の技術開発をさまざま取り上げている。
脱炭素は日本の企業にとって、さまざまなハードルである一方、成功すれば、計り知れない恩恵をもたらすことを、週刊ダイヤモンドと週刊エコノミストの両誌の特集が教えてくれた。
「ニッポン再生計画」7つの論点
「週刊東洋経済」(2021年10月30日号)の特集は、「ニッポン再生計画」だ。総選挙後の焦点である「昭和モデル」脱却の処方箋を示している。
7つの論点を示し、それぞれ提言している。
1 経済成長 高度成長モデルと決別を
2 賃金・雇用 「安売り」依存やめ人への投資増やせ
3 日本型経営と産業 日本企業 復活への道筋
4 政党政治と民主主義 「接続可能な国」を造る政治を
5 移民 高度外国人材を吸引せよ
6 環境・エネルギー 脱プラ、脱炭素 解決のカギは地域にあり
7 外交・安保 「外交の幅」をもっと広げよう
アベノミクスは高度成長期の発想から抜け出せなかったとして、主な経済政策と結果を総括している。学習院大学教授の宮川努氏は、「日本経済は次の成長への『仕込み期間』」として、若いベンチャー企業がもっと自由に活動できる環境をつくるべきだ、と話している。
政治について、衆議院議員(立民)の小川淳也氏と東京大学大学院教授の五百旗頭薫氏が対談。「政治は国民に負担増を求める覚悟を」と野党の立場で説く、小川氏に注目した。五百旗頭氏は「野党は長期的視点でブランド確立を」と訴えている。対談は衆議院選挙前に行われたが、立憲民主党が後退することを視野に入れたかのような内容であり、示唆に富む。
「令和版所得倍増計画」や「新しい資本主義」など、「成長と分配」の両方を打ち出す岸田政権。選挙結果は国民が岸田政権を信任するものとなったが、それらの経済政策の実現性はどうだろうか。左右それぞれの立場から経済学者が論じている。
『人新世の「資本論』がベストセラーになった大阪市立大学大学院准教授の斎藤幸平氏は「格差是正と寄稿変動への対策を急げ」とし、「脱成長型」社会への移行を説いている。
一方、慶応大学名誉教授の竹中平蔵氏は「規制改革に加え第3次臨調の立ち上げを」と訴えている。分配についてはベーシックインカムを挙げているのが、目を引いた。累進制である所得税では、低所得者は税率ゼロだ。これをマイナスとし、「負の所得税」として現金を給付する。現金給付は産業の活性化にも役立つとしている。
今回の衆議院選挙のなかで、日本人の給料水準は先進国の中でも中位にあり、ほとんど伸びていないことが争点として取り上げられ、国民にも広く知られるところになった。岸田政権が掲げる「新しい資本主義」と「成長と分配」路線がどうなるか、注視していきたい。
(渡辺淳悦)