「仕事というアイデンティティを手に入れた」
―― 一方、女性の側でも夫の考え方に同調して、「私も仕事より夫を選んだ」と離婚した投稿者を批判する女性も少なからずいました。これは、どういうことでしょうか。
川上さん「長く連れ添ったご夫婦でも、相手のすべてが好きで一緒にいるということは稀だと思います。お互いに好きなところも好きでないところもあり、それらをすべて包摂して受け入れて一緒にいるのではないでしょうか。
しかし、どうしても受け入れられないこともあるはずで、投稿者さんと夫の間にでは、『専業主婦しか認めない』という考え方が、お互いにどうしても受け入れられないことでした。一方で、回答者の中には『専業主婦しか認めない』という考え方を受け入れられる女性もいるということなのだと思います」
――投稿者は、結局、夫を愛しながらも別れましたが、川上さんなら投稿者に対して今後の生き方、仕事との向き合い方についてどうアドバイスしますか。
川上さん「大切なことは、投稿者さん自身が自らの意思で決断したことです。誰かに無理やり引き裂かれたのはなく、考え抜いた末に自らの意思で、早い段階で決断できたからこそできることがあると思います。投稿者さんは、今回の経験を通じて少なくとも3つのことを確認できました。
1つ目は、仕事に対する思いです。投稿者さんご自身にとって、仕事をすることはアイデンティティと言っても良いほど大切なものだと、改めて気づくことができました。これからの人生の軸が何かを確認できたことは、人生をより充実させる上でとても大きな発見です。
2つ目は、今後また結婚の機会が訪れた時に、仕事に対する考え方を共有できる相手かどうかが重要な判断ポイントになると確認できたはずです。
3つ目は、考え方に違いはあったとしても、今の夫を大切に思うことができていることです。離婚という大きな決断をした一方で、憎んだり、嫌いになったりしないままでいられることは、憎しみや嫌悪を持ち続けるよりも、ずっと素晴らしいことなのではないでしょうか」
――なるほど。どれも大切なことばかりですね。今回の論争で特に強調しておきたいことがありますか。
川上さん「仕事に対する考え方は、人それぞれ違って当然だと思います。しかし、夫婦間で、どちらかが一方的な考えを押し付けるような関係性が生じてしまうと、その束縛によって、人は能力を発揮する機会や持てる可能性を失うことになります。
投稿者さんのように仕事がしたいのにさせてもらえない場合では、仕事を通じて花開くかもしれない能力発揮の機会を失うことになります。逆に、不必要に働くことを強要され、家事や育児に専念したいのにその機会が得られないというケースもあるかもしれません。
夫婦関係に限ったことではありませんが、話し合いの余地もなく、一方的な考えの押し付けによって人生が束縛されてしまうのは、決して健全な関係性とは言えないのではないでしょうか」
(福田和郎)