「対人業務だから自分のタイミングで休息をとりにくい」
いったいどうしてサービス業の女性の死産リスクが高いのだろうか。J-CAST ニュース会社ウォッチ編集部では、研究チームの鈴木有佳助教に話を聞いた。
――これまで外国では「母親の職業と死産リスク」の先行研究があり、日本では初めての疫学研究であるとのことですが、研究調査とは別にして、これまでも「どうも〇〇業の女性に死産が多い」といった現場の産科専門医たちからの「経験的な報告」はあったのでしょうか。
鈴木有佳さん「直接私たちに産科の先生からそのような報告があったわけではありません。ただし、これまでにも職種によって働く人の健康状態が異なるという疫学研究の結果は多く報告されていますので、今回、私たちは母親の職種によって胎児や新生児の健康も異なるのではないかと考え、研究を実施しました」
――今回、サービス業の人が1.76倍、肉体労働の人が1.54 倍...と、「この医療先進国の日本でこれほど職業に差があってよいのか、出産格差ではないか!」と憤りを覚える人が出そうな結果が出ましたが、これは研究チームにとって予想された結果でしたか。この大きな差については、どう考えていますか。
鈴木さん「職業と健康の関連については、これまでもさまざまな研究が行われています。私たちは胎児や新生児の死亡リスクについて調べましたが、職種と働く本人の疫学研究では、脳卒中などの循環器疾患リスクについても同様の結果が報告されています。
したがって、職種による健康格差という意味では、私たちの研究で把握された事象はもちろん改善されるべきですが、疫学者にとっては予想外とは言えないかと思います。日本は国際的に見ても自然死産が少なく、私たちの研究でも対象者のうち自然死産は1.1%です。確かに職業ごとの死産リスクの差を表す結果にはなりましたが、そもそも自然死産の件数が少ないことには留意が必要です」
――それにしてもサービス業の人に死産リスクが一番多い結果が出たのは、どういう理由からでしょうか。個人的な見解でも結構ですので、お聞かせください。なぜ「肉体労働」の人より多かったのか不思議な気がします。
鈴木さん「国の調査のサービス業には、対人業務と考えられる職業が多く含まれております。もしかしたらサービス業では、対人業務ゆえ、自分のタイミングで休息をとりにくいことがあるかもしれません。一方、肉体労働は、農林業、保安、運輸、生産工程に従事する人のことを指しています。
想像の域を超えませんが、肉体労働ではサービス業より自分のタイミングで休息をとりやすかったり、妊婦の負担になることが明らかとされている作業が制限されたりしたことなどが複合的に影響して、サービス業のほうがリスクは高い結果になったのかもしれません。 職種と働く本人の脳卒中発症リスクの関連を調べた研究でも、販売・サービス業のほうが肉体労働よりも高いリスクを示していますから、今回の結果は特殊というわけでもないと考えております」