「なんと、お腹の子が死産する危険が1.8倍!」――。母親の職業によって死産のリスクに差があり、特にサービス業の女性は管理・専門・技術職の女性に比べると、死産を経験した人の割合が1.76倍も高いことがわかった。
大阪医科薬科大学と東北学院大学の共同研究で初めて明らかにされた。日本の産科医療のレベルは世界最高レベルといわれており、死産率や新生児・乳児の死亡率は国際的にも最低レベルだ。
それでも、職業の種類によって死産のリスクが高まることは、働く女性にとってはできるだけ避けたいだろう。いったいどうして働く場によって死産率に差が生まれるのか、どうすれば悲劇が防げるのか、研究者に聞いた。
サービス1.76倍、肉体労働1.54倍、販売1.48倍...
研究したのは、大阪医科薬科大学医学部の鈴木有佳助教と本庄かおり教授、東北学院大学教養学部の仙田幸子教授のチームだ。2021年10月、日本公衆衛生雑誌のウェブサイトに「母親の職種と出産後 1年時までの児の死亡の関連:人口動態職業・産業別調査データより」という研究成果を発表した。
もともと欧米では、流産や死産のリスクが特定の職業、たとえば清掃員、介護職、紡績業従事者などでは高くなるといった研究報告が知られていた。しかし、日本では本格的に調査した疫学研究はなかった。
日本でも第1子出産前後でも働く女性が5割を超え、出産を経ても働き続ける女性が増えている。そうした女性の中には、立ち仕事や重いものの運搬、薬品などに触れる仕事に従事する人も少なくない。胎児に与える影響はどうなのか。鈴木有佳さんたちのチームは、死産のリスクが高い職業があるのかどうか、調べることにした。
調査の方法は、こうだ。厚生労働省のデータには国民の出生、死亡、婚姻、離婚、職業...などを記録する「人口動態調査」がある。その中には、「出生」のデータだけでなく、妊娠12週以降の「自然死産」のデータや、出生後1年未満の新生児・乳児の「死亡」のデータも含まれている。5年度ごとに実施される「人口動態職業・産業調査」には、その亡くなった子たちの母親の出産時のデータも保存されており、「職業」がわかるのだ。
そして、1995~2015年度に生まれた子たちの記録、約530万人分を調べて、母親の職業との関連を分析した。
その結果、死産リスクが最も高いのはサービス職で、管理・専門・技術職に比べて、死産を経験した人の割合が1.76倍高いことがわかった。次に高いのは、肉体労働職(1.54倍)、販売職(1.48倍)、事務職(1.24倍)の順となった。職を持たない人は一番低く、0.95倍となった=グラフ参照。
一方、出産後の新生児・乳児の死亡と母親の職業との関連には違いは認められなかった。ということは、妊娠時の働き方に死産が影響していることを示唆しているのだろうか。
ちなみに、「人口動態調査」における女性のサービス職には、以下の職業が含まれている。
(1)家庭生活支援サービス(家政婦、家事手伝い、ホームヘルパーなど)
(2)生活衛生サービス(美容師、クリーニング師、浴場従事者、葬祭業など)
(3)飲食物調理(調理師、コック、板前、バーテンダーなど)
(4)接客・給仕(ウエイトレス、客室乗務員、ホステス、旅館の女将、ホテルの支配人など)
(5)旅行・観光案内
(6)介護職員(病院、老人保健施設、老人ホーム、身体障害者療護施設の介護福祉士など)