総合重機大手、川崎重工業の株価が2021年10月20日に一時、前日終値比250円(9.7%)安の2330円まで下落した。
米ワシントン首都圏で現地時間の12日に発生した地下鉄脱線事故で、脱線した「7000系」と呼ばれる車両を、川崎重工の現地法人が米国で製造していたことから、米国家運輸安全委員会(NTSB)が18日(現地時間)、同社製の車両を使用している他地域の交通局に早急な検査を呼びかけた。それによる「車両事業」(鉄道部門)の先行き不安から、株式市場で売りが殺到した。
株価は反転のきっかけをつかめず
事故はワシントン郊外のロズリン駅付近のトンネル内で発生。乗客は無事脱出して死傷者はなかったものの、NTSBは事態を重視し、18日の記者会見で各交通局に検査を行うよう注意喚起した。また、NTSBは同種の車両で2017年以降、31回不具合が見つかっていることも発表した。
事故の影響は広がっており、ワシントン首都圏交通局は18日から川崎重工の7000系車両の運行を停止。通勤・通学にも支障をきたす事態となっている。
川崎重工はNTSBの発表を受けて、19日(日本時間)にコメントを発表。(1)事故についてはNTSBが原因の調査を行っている(2)31回の不具合が発生していたと公表されたが、その不具合の発生原因、脱線との関連性は特定されていない(2)川崎重工はワシントン首都圏交通局とNTSBの要請にしたがい、現地で調査に協力している、とした。
NTSBの発表を受けて、東京株式市場では19日に一時、前日終値比220円(8.0%)安の2542円まで下落。19、20日と2日続けての急落により、20日の終値は18日比415円(15.0%)安となった。その後も反転のきっかけをつかめていない。
投資家は車両改修など追加の費用負担を警戒
川崎重工は航空宇宙システム(航空エンジンなど)、エネルギーソリューション&マリン(発電用ガスタービンや液化天然ガス=LNG船など)、精密機械・ロボット(建設機械用油圧ショベルなど)、モーターサイクル&エンジン(消費者向け二輪車など)と多面的に事業を展開しており、車両事業の売上高は全体の1割程度。利益面では苦戦しており、2021年3月期まで4期連続の赤字に陥っている。22年3月期も第1四半期は8億円の営業損失だった。
主力とは言えないかもしれないが、経営の一角を担う重要な車両事業。NTSBの調査結果次第では、改修など追加費用の負担を迫られる可能性もあるため、投資家に警戒感が広がっている。
実際、米国で納入した鉄道車両に配線不良が見つかり、2019年3月期に約50億円の改修費を計上している。また、川崎重工は今後も米国各地で納入を計画しているが、調査結果によっては受注が困難になるとの連想も売りを加速したようだ。
アナリストからは「外部から判断できることは限られているため続報に注目する必要があろう」(SMBC日興証券)などと、影響を推し量りかねるとのコメントが相次いでいる。今後の事態の展開はNTSBの判断に委ねられている面が大きく、投資家の抱える先行き不安は容易に解消しそうにはなさそうだ。
(ジャーナリスト 済田経夫)