栽培計画と可視化したベストプラクティスが重要
本書は、第Ⅰ部で、マクロエコノミクスの変化、技術革新、食習慣・食生活の影響、代替品・代替手法の登場、新規参入プレイヤーなど8つのメガトレンドについて解説し、第Ⅱ部で、日本の食と農の未来を論じるという構成になっている。
日本の従来の農業では、一人ひとりの生産者がそれぞれに作りたいものを作る(プロダクトアウト)というスタイルが主流だった。効率的な栽培計画を立てるというよりは、前年踏襲の作法を続け、他産地の状況や気候等により乱高下する農作物価格のなかで、生産者はその不確実性を楽しむかのような傾向もあった。
しかしながら農業が大規模化し、雇用する労働力や購入する肥料・農薬・資材のボリュームが大きくなるにつれ、可能な限り安定的な価格で、決まった量を販売する必要性が高まってきた。卸売市場の実需者(バイヤー)と生産者が直接話し合い、需要と供給の確実性を高めた需給調整を行う場面も出てきているという。
そこで重要になってくるのが栽培計画だ。米国やカナダでは栽培計画を進める上での新しいビジネスが起こっている。日本でもテラスマイルという会社が気象データ等のビッグデータと農業経営の実績をもとに経営計画を策定したり、アドバイスしたりして、宮崎県内のピーマン農家グループで3年間実践し、3年目には2年目の15%の収量増を達成したという。
農業技術の伝承には、「農作物の栽培方法にベストプラクティス(篤農家の技術)は存在する」という考え方が大前提としてあるそうだ。これらは明文化されず、世代を超えて伝承しにくいというデメリットがあった。これを可視化してレシピとして共有する動きが始まっているという。ルートレック社のゼロアグリ、セラク社のみどりクラウドなどのシステムだ。
最後に提言しているのは、生産者、加工業、物流、小売りなどバリューチェーンの各プレイヤー間に存在する壁を取り払い、有機的につなげる「コネクト」された食品供給システムを構築することだ。さらに、各プレイヤーに指示する指揮者の役割も不可欠だという。商社がバナナなどの分野で話してきた役割を紹介している。
そうした指揮者が機能すれば、農業とは縁遠かった他産業から参入してくる企業も増え、ありとあらゆる業種が日本の農業の強化に役割を果たすはずだ、と結んでいる。
もちろん、消費者も情報発信などで大きな役割を果たすことになる。生産者任せではなく、消費者、企業、生産者が結びつくことによって、「最適化」した農産物の生産が実現し、フードロスも減るのではないだろうか。ビジネス志向の本だと思い読み始めたが、消費者にもバトンが渡されていることがわかった。(渡辺淳悦)
「マッキンゼーが読み解く 食と農の未来」
アンドレ・アンドニアン、川西剛史、山田唯人著
日本経済新聞出版
2200円(税込)