分配は「金の卵を産む鶏」の企業をつぶす
一方、「あくまで富を生み出すのは企業だ」という立場から、キシダノミクスの「分配論」には「金の卵を産む」はずの企業側への配慮が欠けていると批判するのは、岡三証券グループの岡三グローバル・リサーチ・センター理事長の高田創氏だ。
「成長なくして分配なし、新政権はプロビジネスのメッセージを『コンクリート~人へ』再考、分配重視の反省は何か」(10月19日付)で、かつて民主党政権下で事業仕分けに携わった経験を反省し、ポピュリズム(編集部注:大衆迎合主義の人気取り政治運動)の観点から岸田首相の「分配重視」の姿勢を厳しく批判。キシダノミクスの中にも含まれている格差是正のさまざまなメニューの問題点を表にしたうえで、こう指摘した=図表2参照。
「分配重視のメッセージはポピュリズムの観点から政治的に見栄えが良く、立憲民主党との対立を回避する観点からもうってつけだ。図表は格差問題への対応の理論上のメニューである。今後、格差是正の観点から以下の項目が改めて議論されることもあるだろう。
企業は法人税負担も利払い負担も軽減された状況にあるだけに法人税負担増加、課税範囲拡大も視野に入ってくるだろう。環境問題を展望し、炭素税も含めた環境課税を一定の環境対応へのインセンティブ策とすることも考えられる。ただし、現実に目を向ければ、法人税はアベノミクスでようやく35%から29%に引き下げ、 欧米並みの20%台にしただけにその引き上げは容易でない」
そして、本来の「分配」は企業を通じてなされるべきだと、こう主張する。
「日本がアベノミクス以降、企業の収益環境を支援するプロビジネス(編集部注:企業活動を重視する姿勢)の発想を継続したのは、バブル崩壊後の資産デフレの悪循環のなか、企業を富ませることにより株式を中心とした資産価格を底上げすることにあった。それだけに、(キシダノミクスの)法人税を含め企業負担拡大は『金の卵を産む鶏』を殺しかねない。拙速な資産課税は得策でない。むしろ株式を中心とした資産保有が容易になる税制インセンティブを考えるべき局面である。
図表3はどのような経路で企業が国民へ富を分配するかを示す概念図だ。政府を通じた分配も、結局は企業を通じた富の形成が源泉になり、国債発行と言っても打ち出の小槌で富が生じるものでもない。図表3では、日本企業が国民に富を分配する3ルートを示しており、第1は、バランスシート(B/S) 上の投資、第2は損益計算書上(P/L)の賃金支払い、第3は利払いにある」
しかし現在、現実には以上の3ルートが滞った結果、企業が保有するキャッシュ(編集部注:内部留保など)は高水準が続いているという。本来の『分配』政策として、企業が投資や賃金で還元しやすくするべく、成長戦略として企業の成長率が高まる政策を行う必要があると訴える。そして、高田創氏はこう結ぶのだった。
「アベノミクス否定ではなく、アベノミクス継続で企業からの分配強化に努めるべきである。むしろ、アベノミクス以降の『3本の矢』とされた政策を維持・強化させることだ。短絡的に『分配重視』に舵を切って、『プロビジネス』の潮流を妨げてはいけない」