日本製鉄はトヨタとの力関係を対等にしたい?
さらに、二酸化炭素(CO2)排出の多い鉄鋼業界では、低炭素技術の開発に莫大な資金が必要で、日鉄単独でも数兆円規模の研究開発投資や設備投資が必要になるといわれる。そこで、呉製鉄所(広島県呉市)の閉鎖や和歌山製鉄所(和歌山市)の高炉休止、1万人の人員削減などリストラにも踏み切っている。必要な資金を稼ぐ力の維持・向上のためにも、虎の子の技術を守ることが一段と重要になっている。
日鉄とトヨタはこの夏、鋼材価格をめぐる交渉が難航した。J-CASTニュース 会社ウォッチでも「日鉄vsトヨタ 自動車部品向け鋼材の価格交渉、今後に禍根残す大幅値上げの決着」(21年9月25日付)で詳しく書いたが、今回の提訴は、自動車用鋼材の共同開発などでも親密な関係を築いてきた両社間の溝を一段と広げるものといえるだろう。
トヨタは、長い取引関係がある日鉄が、鋼板を造った宝山だけでなくユーザーであるトヨタまで訴えたことに衝撃を受けている。メーカーとユーザーの関係は、特に大手ユーザーであるほど、ユーザー側が優位に立つ場合が多いが、「日鉄の一連の対応は、トヨタとの力関係を対等にしたいとの思いがあるのでは」(業界関係者)との指摘もある。
価格交渉を含め、日鉄側の並々ならぬ決意を突きつけられたトヨタが今後どう動くか、内外の他の鉄鋼メーカー、自動車メーカーが固唾を飲んで見守っている。(ジャーナリスト 済田経夫)