日本製鉄にとっては「生命線」の技術
この裁判の関連で、新日鉄の元社員がポスコに情報を流した証拠を押さえることができた。結局、2015年秋、新日鉄住金(当時、現日鉄)はポスコから300億円の支払いを受けて和解している(J-CASTニュース「新日鉄住金が韓国ポスコと300億円で『和解』した事情 氷山の一角の産業スパイに新法は抑止力になりうるのか」(2015年11月6日付))。詳しい和解内容は不明だが、ポスコへの技術流出があったとみるのが至当で、さらにその先の宝山鋼鉄にも流れた可能性もあるとみられる。
日鉄・ポスコの係争になった技術は、電磁鋼板でも「方向性電磁鋼板」という製品の技術。今回、トヨタなどを訴えた「無方向性」とは異なり、技術開発の流れの中で、技術を宝山鋼鉄がどのように入手し、発展させたかは不明だが、「方向性」も「無方向性」も技術的に関係は深く、日鉄の「無方向性」の特許が侵害された可能性は否定できない。
日鉄は今回の提訴に向け、トヨタ車や宝山鋼鉄の鋼板の成分を分析するなどして、特許が侵害されたとの判断に至ったという。
関係が深い業界トップ企業同士が対立するのは、従来の「日本株式会社」では考えられなかったこと。それだけ日鉄の危機感は大きい。鉄鋼業は生産量で世界を席巻する中国勢に対し、技術で戦わざるを得ないのだが、この面でも追い上げが激しい。
特に世界的に「脱炭素」の流れの中で自動車の電動化が加速しており、EVの性能を大きく左右する電磁鋼板の技術は、日鉄にとっては生命線ともいえ、世界の鉄鋼市場での競争力の源泉でもある。その特許侵害を見過ごすことはできないというのだ。