【リモートワークで働きがいある職場を創る〈第1回〉】リモートワークとは、「remote=遠隔・遠い」と「work=働く」の合成語。在宅勤務や郊外のサテライトオフィスなどでの勤務を意味し、テレワーク(tele =離れた所)と同義です。新型コロナウイルスの蔓延を機に、感染防止のため一気に普及しました。
リモートワークを一度導入した企業は、感染症収束後も後戻りせず、今後のニューノーマル下の働き方として定着させる可能性が高いでしょう。
しかし、リモートワークでは、従来のリアルな職場での上司・部下コミュニケーションをそのまま行うのではうまくいきません。上司と部下が遠隔にある中で、いかに部下の自律的な働き方を引き出し促進できるか――。マネジメントの根本的な改革が求められます。
この連載では、リモートワーク下で求められる上司の心得とスキルを詳しく述べることを通して、遠隔でもリアルでも普遍的に通用する「本物の上司力」を発揮する具体的な方法を解説していきます。
リモート環境下のマネジメントに悩む上司たち
働き方改革の一環で、すでにここ何年ものあいだに、在宅勤務をはじめとしたリモートワークの導入が勧奨されてきました。しかし、一昨年までは一部の先進的な企業で試行段階にあったのが実状でした。
それが2020年には、想定外のコロナ禍によって、密閉空間、密集場所、密接場面の「3密」回避が喫緊の課題となり、多くの企業が急きょリモートワークを取り入れました。しかし、十分な環境整備も心の準備もない中での導入に、マネジメントに悩む上司が急増しているのが現状です。
企業セミナーやコンサルティングの場面で捉えた悩みを、いくつか紹介しましょう。
■システム開発企業勤務 40代前半の管理職
「コロナ禍以降、会社は、リモートワークを導入し『生産性の向上とワークライフバランスの質の確保』を目指しています。密を避ける環境整備を進めていますが、従前より部下と直接対面する機会が減少していることを懸念しています。部下の仕事ぶりもよく見えないし、コミュニケーションをどのように取ればいいのか。いまだに悩んでいます...。」
■サービス企業勤務 50代前半の管理職
「コロナ禍の業績悪化で、パート・アルバイトスタッフは休業させ、感染対策をして、最低限の正社員のシフト勤務で営業を続けています。在宅勤務も一部認められ、部下とのやりとりはメールやテレビ会議の利用が推奨されています。非常事態なので致し方ないとはいえ、このままの働き方で十分理解が進むのか、少々乱暴な結果を生むのではと危惧しています。こう考えるのは古い人間だからでしょうか?」
■広告代理店勤務 50代前半の管理職
「当然、今までの人事評価方法はリモートワークに当てはまらず、会社も完全な成果主義に向けて見直しに動き始めています。そうなれば、部下自身に自ら動いてもらわないと困る。今までどおりの周りでのサポートは難しいからです。管理職のあり方も、今までとは違う形になるでしょう。本来なら、そこに自分も率先して加わっていくべきかもしれません。でも、『もういいかな』と。自分たちの出る幕じゃないのかなとも思います。」
上司は寂しく部下は気楽なテレワーク ~際立つ上司・部下の意識ギャップ
「テレワークと人事評価に関する調査」(2020年4月・あしたのチーム)によると、「テレワークをしてみて感じたこと」で管理職の答えの1位は「通勤時間がない分、読書や勉強などスキルアップの時間が持てる」(37.8%)、2位は「人とのコミュニケーションがなくさみしい」(30.6%)です。これに対し部下にあたる一般社員は、1位が「人間関係のストレスがなく気楽」(36.7%)、2位が「仕事態度に緊張感がなくなった」(28.0%)です。上司は寂しく部下は気楽という、対称的な結果が表われています=下図参照。
また、「テレワーク時に管理職が部下に関して不安に感じていること」では、1位が「生産性が下がっているのではないか」(48.0%)、同率2位が「報連相をすべき時にできないのではないか」、「仕事をサボっているのではないか」(32.7%)とのこと。上司は部下の様子が見えず疑心暗鬼になり、テレワーク時の部下の人事評価は「オフィス出社時と比べて難しい」(73.7%)と答えています。
さらに、「テレワーク長期化に伴う組織課題に関する意識調査」(2020年4月・Unipos)では、「テレワーク前より部下の仕事ぶりがわかりづらい」と答えた管理職が56.1%だったのに対して「上司や同僚の様子がわかりづらい」と答えた一般社員は48.4%で、上司側のほうが7.7ポイント高くなっています。
こうしてリモートワークが広がる中で浮かびあがったのは、部下の日々の働きぶりを把握できずに悩む上司の姿です。職責意識の高い上司ほど、責務を果たせないと焦りや不安を感じているかもしれません。 その背景には、会社組織としても社員の働きぶりを管理しきれない危機感があるといえます。深刻な例では、ストレスが高じた上司がリモート・ハラスメントを起こすケースも出ているのです。
では、こうした現状をどう捉え、いかに克服していけばよいか。次回はその道筋を考察します。
※ マネジメント改革を実現する「上司力」の詳細をさらに詳しく知りたい方は、拙著「本物の上司力 ?『役割』に徹すればマネジメントはうまくいく」(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。