2019年7月から始まった韓国の日本製品不買運動の標的にされ続けてきたユニクロに、3年目にして春がめぐってきたようだ。やっと黒字に転換したのだ。
その喜びを打ち上げ花火で表したのか、あるいは巧みな経営戦略からか、ユニクロは高級ブランド商品を20分の1以下という超破格の安売りに打って出て、韓国メディアの話題をさらっている。
ユニクロに何があったのか。韓国紙で読み解くと――。
300万ウォンのダウンパーカを5%の15万ウォンで販売
超破格の安売り作戦で不買運動を一気に吹き飛ばしたユニクロの見事さを、韓国メディアはそろって報じている。
朝鮮日報(10月16日付)「韓国ユニクロ『300万ウォンのダウンを15万ウォンで販売』ネットで品切れ」は、こう伝える。
「300万ウォン(約29万円)台のダウンパーカを15万ウォン(約1万4000円)で売って話題になったユニクロのコラボレーション・アイテムが10月15日、オンラインストア入庫と同時に品切れになった。このアイテムは、日本のデザイナー相澤陽介氏が立ち上げたブランド『ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)』とユニクロがコラボしたもので、発売前からファッション・マニアの間で口コミが広がっていた。
冬物のダウンパーカを300万ウォン台で売っているホワイトマウンテニアリングのアイテムだが、ユニクロとのコラボにより、その価格を12万9000ウォン~14万9000ウォン(約1万2000円~1万4000円)に抑えたことが功を奏した。相澤陽介氏は2016年からパリのファッションウィークに参加しているデザイナーで、彼が作ったブランドもファッション業界で新たな有名人気ブランドとして認められている」
朝鮮日報によると、具体的にはこんなパニック状態だった。
「15日にオンラインストア上で正式に発売された『ハイブリッドダウンオーバーサイズパーカ』のメンズ商品は、午前9時の時点で黒は全サイズ品切れに。ネイビーとダークグリーンも4XLサイズを除き全サイズが完売。レディースもブラウンが3XLサイズを除いてすべて売れてしまった」
相澤陽介氏(48)は韓国でも人気のデザイナーだ。日本のユニクロの公式サイトなどによると、相澤氏は、2006年に「服を着るフィールドはすべてアウトドア」をコンセプトに、自身のブランド「White Mountaineering」(ホワイトマウンテニアリング)をスタート。現代的なシルエットと斬新なカッティングを組み合わせることで、動きやすくて快適なウェアを提供するのが特徴。2012年ロンドン五輪でミズノが製作した日本選手団用ウォームアップスーツや、サッカーJ1コンサドーレ札幌のユニフォームのデザインなども手がけた。2016年からパリ・コレクションでの発表を続けている。
完売演出のウラに「巧みな仕掛け」が......
ところで、ユニクロはこの日、オンラインとオフライン(実店舗)の両面作戦でコラボ商品を販売した。わざと準備した品数を少なくして「盛り上げた」のではないか、と疑念を呈するのは中央日報(10月16日付)「『不買運動どこ吹く風?』 ユニクロ、初日からダウンジャケット完売 数百万ウォンを10万ウォン台で」である。こう伝える。
「ユニクロが韓国で10万ウォン(約9600円)のダウンジャケットを発売日の10月15日に完売させた。ユニクロは日本の高価ブランド『ホワイトマウンテニアリング』とコラボレーションして作った製品をこの日オンラインモールとオフライン店舗を通じて販売を始めた。すでに早朝からオンラインモールでは製品が品切れとなり、オフライン店舗前にはこれを購入しようとする客が長い列を作ったりもした。
ホワイトマウンテニアリングは日本の高価衣類ブランドで、販売価格が数十ウォン(数万円)~数百万ウォン(数十万円)水準になるが、ユニクロとのコラボ製品は価格が10万ウォン(1万円台)台(1万円台)ということで購入者が殺到した。予想よりも早く完売したことで『準備物量そのものが少なかったのではないのか』という不満まで提起される状況だ」
つまり、オンラインでは早朝から製品がほぼ完売状態になり、「買えなくなる!」と危機感を募らせた若者たちが、店舗の開店前から長蛇の列をつくった。このため、それを韓国メディアの多くが報じる結果となったわけだ。
ユニクロの「話題づくり」がうまいのは、超大安売りの前日の10月14日に、2019年7月から始まった日本製品の不買運動の標的にされて以来、ずっと赤字だった韓国での事業が黒字に転じたと発表したことだった。
聯合ニュース(10月15日付)「ユニクロ 韓国で黒字転換=コラボ商品の人気などで」がこう伝える。
「韓国で2019年に始まった日本商品の不買運動の影響で大きな打撃を受けたユニクロが、高級ブランドとのコラボレーションなどで業績を回復させている。ユニクロなどを展開するファーストリテイリングが10月14日発表した2021年8月期の連結決算によると、韓国での事業は黒字転換した。ファーストリテイリングは連結決算発表で韓国での売上高は小幅に減少したが、黒字に転じたと明らかにした。ただ、具体的な業績は公開しなかった」
10月14日に、日本のユニクロの親会社のファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が、8月期連結決算で過去最高となる1698億円の純利益を計上したと発表したのだった。コロナ禍の「巣ごもり需要」によって、純利益は昨年(2020年)より88.0%増となり、韓国事業も黒字に転じたと報告した。
日本製品の不買運動が始まって以来、韓国ユニクロは散々な状況だった。聯合ニュースによると、2019年末時点で187店だった韓国内の店舗数は50店舗以上減り、現在は約130店。今年1月には、当時世界で2番目の大きさといわれたソウル市の明洞(ミョンドン)中央店が閉店に追い込まれ、10月24日にも韓国1号店であるソウル市内のロッテマート蚕室(チャムシルジョム )店が閉店したばかりだ。
ユニクロも、やっと回復へのスタートを切ったところ、といったところか。
(福田和郎)