台湾の半導体製造大手、TSMCが熊本に新工場 緊張高まる台中対立で地政学リスクの分散狙う

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失政のツケ? 後退する日本の半導体産業

   日本の半導体産業は1980年代こそ世界シェア首位を占め、米国との激しい貿易摩擦に発展したこともあったが、今やシェアは10%程度まで低下。経済産業省主導で国内3社を統合し、公的資金も投じた「エルピーダメモリ」(現マイクロンメモリジャパン)が2012年に経営破綻。東日本大震災で主力工場が被災した「ルネサスエレクトロニクス」はなんとか支えたが、経営危機に陥った東芝が半導体事業を切り離し、独立した「キオクシア」は米韓などの外資の出資を受け、どのような経営形態になっていくのか、あいまいな部分が多いなど、これまで日本政府は半導体産業の育成に失敗してきた。

   実際の生産を見ると、巨額の投資に耐えきれなくなった半導体メーカーは設計・開発と生産を切り離し、生産はTSMCのような受託製造会社に委託するようになっている。最先端の5ナノメートル半導体はもちろん、今回TSMCが生産する予定の20ナノメートル台の半導体を自前で量産できないのが日本の現状だ。今のうちに生産機能を国内に復活させなければ、いずれ自動車や家電、工作機械など国の重要産業の国内生産に影響を及ぼしかねず、外資であっても、国内での生産拠点を確保する重要性は極めて高い――そう判断した故の補助金だ。

   ただ、もろ手を挙げて喜んでばかりもいられない。まず、巨額の補助金を外国企業へ投じるのは異例で、他の半導体メーカーから「TSMC優遇」との反発が予想される。世界貿易機関(WTO)のルールとの整合性も問われかねず、補助金をもらって建てた工場で生産した製品を日本国内で安く供給したとして、例えば韓国のサムスンなどが「補助金のせいで顧客を奪われ、損害を受けた」と主張し、WTOでの係争に発展するかもしれない。

   逆に、TSMCが進出しても日本で売れなければ意味がない。共同事業の候補であるソニーグループはスマホに使うイメージセンサーをTSMCに生産委託している。デンソーの名が挙がるのも、自動車向けというユーザーとの関係をにらんでいるとみられる。巨額の補助金を投じて誘致する以上、途中で撤退するような事態を招かないよう、事業への出資など、顧客となる関連業界のコミットをいかに組織するか、これも政府(経産省)の仕事だろう。(ジャーナリスト 済田経夫)

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