地方銀行3行を傘下に抱える金融持ち株会社で、山口県下関市に本社を置く山口フィナンシャルグループ(FG)が揺れている。
株主総会で再任されたばかりの会長兼グループCEO(最高経営責任者)を取締役会が「解任」し、取締役の辞任も勧告した。前会長が計画していたえげつないビジネスまで明らかになり、地銀の経営の先行きが、いかに厳しいかを映し出した。
「個人金融専門の銀行」設立といえば聞こえはいいかも......
解任劇が起きたのは2021年6月25日。定時株主総会で会長兼グループCEOの続投を前提に取締役に再び選任された吉村猛氏が、続いて開かれた臨時取締役会で会長兼グループCEOの再任を、他の取締役全員の反対によって認められなかった。
総会で選任された取締役の解任は、取締役会にはできないので、吉村氏は取締役にとどまっている。
吉村氏に代わって山口FGのトップに立った椋梨敬介(むくなし・けいすけ)社長兼グループCEOがその日に記者会見を開いたが、解任の理由については、
「社内合意がないままに進めた新規事業案件や、ガバナンス(企業統治)に関する考え方に意見が上がった」
といった抽象的な説明に終始した。
その後の報道によって、吉村氏は消費者金融大手アイフルと提携して新銀行を設立し、コンサルタント会社の元役員を高額報酬で新銀行のトップに据える構想を進めていたことが明らかになった。
山口FGは10月14日、新銀行構想に関する調査報告書を公表し、吉村氏に「権限の逸脱があった」と認定。異例の解任劇を正当化する内容だ。この日の臨時取締役会では、吉村氏の取締役辞任を勧告すると決議した。椋梨氏らは記者会見を開き、吉村氏が辞任に応じるかどうか回答をしていないと説明した。
この調査報告書では、吉村氏が進めていた新銀行構想の一端が明らかになったが、それは山口FGとアイフルが共同出資して「全国区の個人金融専門の銀行」を設立し、「格差社会におけるマスリテール層の生活改善のための金融を展開する」というものだった。
具体的には、顧客に毎月10万円を貸し出し、返済は貸出額が上限に達するまでは利息のみにとどめ、顧客が死亡すれば死亡保障保険を返済に充てる、という耳を疑うような内容だ。
「格差社会におけるマスリテール層」という回りくどい表現をしているが、要は低所得者層という意味だ。死亡保険で返済させるという仕組みについて、事前に把握していた金融庁関係者は「銀行がやるようなことではない」と嫌悪感を示したという。