「最も重要な不透明性は中国政府そのものだ」
ニューズウィーク日本版(10月16日付)「中国不動産バブルの危険度を、さらに増幅させる3つの『隠れたリスク』」(埋込リンク:https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/10/3-282.php)で、ウエイ・シャンチン・コロンビア大学経営大学院教授(元アジア開発銀行チーフエコノミスト)は、恒大集団の破たんは金融システム全体を揺るがす恐れがあると述べている。
「中国恒大がデフォルトに陥った場合、中国経済に与える衝撃は33兆円(中国のGDPの2%)の損失どころではないだろう。3つの不透明性が、中国経済全体に与える影響を増幅する恐れがある。
第1の不透明性は、中国恒大と同じように借金頼みの成長を遂げてきた不動産開発業者への影響だ。金融機関は不動産業界全体の失速を懸念しており、それが貸し渋りにつながれば、不動産開発業者も資金繰りが悪化して、債務返済に窮する。それは中国の金融システム全体を揺さぶる恐れがある。
中国恒大が破たんすれば、鉄鋼やセメントなどの建築材料や、住宅機器のサプライヤーなども打撃を受け、自らの債務返済に行き詰まる恐れがある。幅広い業界で融資の焦げ付きが増えれば、金融機関の経営にも不安が生じる」
いったい、どのくらいの負債があるか不明な点も大きな危険材料だ。
「一方で、中国恒大はシャドーバンキング(銀行簿外での金融取引)も幅広く利用していた。その借り入れの一部は、本体の決算に含まれない関連会社に移し替えていたようだ。こうした簿外取引の規模やどのような管理がされていたかは不透明で、問題を肥大化させる恐れがある」
そして、ウエイ・シャンチン教授は、最も重要な不透明性は中国政府そのものだと指摘する。
「最も重要な不透明性は、中国恒大の問題が中国全体のシステム危機に発展した場合、政府が全面的な金融メルトダウンを阻止できるかどうかだ。対GDP比で見た中国の政府債務は約70%で、アメリカ(約133%)や日本(約256%)、フランス(約115%)と比べればずっと少ないから、政府が潜在的な危機に対処する余力は十分にある。中国人民銀行(中央銀行)も、信用収縮が起きた場合、市場に大量の流動性を供給するツールと能力を持つ。
だが問題は、中国当局が介入措置に前向きかどうかだ。中国恒大は国有企業ではないし、政府は格差解消運動『共同富裕』(みんなで豊かになろう)」を本格化している。そんななかで中国恒大を救済して、その創業者で大富豪である許家印も救うのでは市民に示しがつかない。政府は中国恒大の経営破たんに備えて、さまざまな余波を防ぐ緊急対策を用意している。その計画を公表すれば、政府の準備態勢と行動能力に対する不安を払拭して、市場のパニックに終止符を打つことができるはずだ」
と呼びかけるのだった。