百貨店の「大丸」「松坂屋」を運営するJ.フロントリテイリングの株価が2021年10月13日、前日終値比121円(11.9%)高の1138円まで急伸した。19日の株価は終値で1050円だった。
前日取引終了後に発表した2021年8月連結中間決算が最終赤字ではあったものの、赤字幅が前年同期より大幅に改善。さらに最終黒字に反転するとの通期業績予想を据え置いたことから今後の業績回復を期待できるとの思惑が広がった。
小売業界の中でもネット通販力が弱い百貨店は巣ごもり需要の恩恵を受けづらい半面、新型コロナウイルスの感染者の減少により、店舗に足を運ぶ人が増える効果は大きい。
野村証券「販管費の抑え込みで一定の利益を確保」と評価
それでは、中間決算の内容を見ていこう。売上高にあたる売上収益は前年同期比6.7%増の1573億円、営業損益は13億円の赤字(前年同期は206億円の赤字)、最終損益は28億円の赤字(前年同期は227億円の赤字)だった。
7月に出された緊急事態宣言やコロナ禍の第5波による急激な感染者の増加で客足が遠のき、赤字を脱却することができなかった。
売上高全体の6割程度を占める主力の百貨店事業のセグメント収益が47億円の赤字(前年同期は203億円の赤字)となった。一方、「パルコ」部門を含むショッピングセンター事業は4億円の黒字(前年同期は30億円の赤字)に転じた。パルコが業績改善の先頭ランナーとなっているとも言える。
株価は13日の急伸後も崩れてはおらず、年初来高値(6月9日の1218円)を視野に入れる。
野村証券は中間決算を受けたリポートで「7月後半から8月にかけての新型コロナウイルスの感染拡大の影響により販売は厳しかったものの、販管費の抑制が進み一定の利益を確保した点は好印象であった」と指摘した。販管費自体は前年同期より11.6%増えたが、6~8月期(第2四半期)に計画より25億円(約7%)減るなど、確かに抑制は進んでいる。一時的なコスト減のみならず、ポスト数の減少や単身赴任の解消など恒常的に減る取り組みも実施する方針だ。
実行できるか!? 「実現可能」な中長期的成長戦略
2022年2月期通期の連結決算の業績予想は、売上収益について従来予想から75億円減額した3575億円(前期比12.0%増)に下方修正したものの、営業利益など各利益はすべて据え置いた。この点が「コスト削減が進むのだろう」として市場に評価された。
先の野村証券のリポートは「緊急事態宣言の解除等に鑑みて、下期にかけて業績回復に向かうとの見方に違和感はないだろう」とも記した。
SMBC日興証券は中間決算を受けたリポートで、コスト削減の徹底などを踏まえて「(同業)他社よりも危機感を持って変化のスピードを上げ、過去もそうであったように百貨店業界の中で中期的利益回復の先陣をきってほしい」とコメントした。
そうした市場の期待が株価の急伸につながったようだ。
とはいえ、百貨店業界では今世紀に入って趨勢的に売上高減少や店舗閉鎖が続いている。一時的に業界を潤した訪日外国人需要はコロナ禍で蒸発してしまった。コロナ禍をくぐり抜けた先に訪日外国人需要がある程度は復活する可能性があるが、以前の水準に戻る保障があるわけではない。
実現可能な中長期的成長戦略を示し、かつ実行していかなければ、投資家から見放される可能性もありそうだ。
(ジャーナリスト 済田経夫)