麹はカラダにいいだけではなかった! 地球環境をも救う存在かも......【食品のムダをなくす一冊】

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   10月は「食品ロス月間」。冷蔵庫の活用術や、食材やお料理の節約術、最新の農業事情などをテーマにした本を随時、紹介していこう。

   10月16日は「世界食料デー」。日本の食文化が誇る「麹」は食べものとして人間の免疫力アップに役立つのはもちろん、汚染が進む地球環境を救う可能性もあるという。本書「麹親子の発酵はすごい!」は、親子二代で麹にかかわる仕事をしている親子の共著だ。

「麹親子の発酵はすごい!」(山元正博・山元文晴著)ポプラ社
  • 「麹」は人間の免疫力アップに役立つ!(写真は、塩麹づくりの1コマ)
    「麹」は人間の免疫力アップに役立つ!(写真は、塩麹づくりの1コマ)
  • 「麹」は人間の免疫力アップに役立つ!(写真は、塩麹づくりの1コマ)

父・正博さんは「霧島高原ビール」の生みの親

   コロナ禍の影響で免疫力を高める効果があると、甘酒、味噌、漬け物、パン、キムチ、納豆、チーズ、ヨーグルト、麹などの発酵食品が注目されている。発酵と言えば、おなじみの東京農業大学名誉教授で発酵学者の小泉武夫さんが、本書「麹親子の発酵はすごい!」に推薦の辞を寄せている。

「日本の国菌である『麹菌』の神秘を科学的に解明し、その応用を広く開拓した麹博士の父親。その麹菌の持つ美容と健康の力を医学的に解明した息子の医学博士。この親子の息の合った『麹学』は、これからの日本を変え、これからの人生に役立つ」

   親子で麹を極めようというのは、どんな人たちなのだろうか。山元正博さんは、鹿児島の種麹屋の3代目。と言っても、かなりの学究肌だ。東大農学部から大学院修士課程(農学部応用微生物研究所)修了。卒業後、河内源一郎商店に入社。1995年に誕生させた「霧島高原ビール」は、クラフトビールの先駆けになった。99年、「源麹研究所」を設立、食品としてだけでなく、麹を利用した食品残渣の飼料化や畜産に及ぼす効果などの研究を続けている。

   息子の文晴さんは東京慈恵会医科大学医学部卒。国立病院機構鹿児島医療センター、鹿児島大学医学部に勤務。医師として患者に向き合う中で医療における麹の可能性に気づき、錦灘酒造株式会社に入社。その後、東海大学大学院医学研究科先端医科学専攻博士課程を修了。医学博士に。麹がカラダに及ぼす働きの臨床例を研究中だ。

九州の焼酎の基礎を築いた祖父の麹

   「麹は、微生物から人類への最高のギフト」と題して、父の正博さんが麹の基礎についてレクチャーしている。麹とは麹菌という微生物のこと、そして麹菌は、カビの仲間だ。蒸したお米に?菌を生やしたものを「米麹」、麦に生やせば「麦麹」、豆に生やせば「豆麹」になる。

   日本にはさまざまな麹菌があるが、お酒にかかわる代表的な麹菌が、黄麹、黒麹、白麹の3種類だ。黄麹は主に日本酒や甘酒を造る時に使われる。クエン酸は作らない。黒麹のひとつと、白麹は、正博さんの祖父、河内源一郎氏が発見したものだという。クエン酸をつくる沖縄の黒麹に注目し、独自の黒麹菌の培養に成功した。これを使った焼酎が九州全土に広まった。山元さんの家は、どうも?の名門一家のようだ。

   麹はカビだ。だが、日本の麹菌には遺伝的にカビ毒を出す遺伝子がないことが近年わかったという。日本人は古くから麹菌とうまく付き合い、さまざまな食べ物を作ってきた。日本のお酒と和食に使う調味料のほとんどは、麹を使って作られる。

   「日本食=麹」と言っても過言ではないという。味噌、みりん、しょうゆ、かつお節、穀物酢も麹を使って作る。その健康効果について、息子の文晴さんが語っている。最初、父に効果を試してほしい、と言われたときは、「えー、嫌だな、本当に効くの?」と疑いの目で見たという。

腸内環境を良くする黒麹と白麹

   臨床の場で試したところ、効果がわかり、麹にハマったそうだ。麹がカラダに及ぼす一番の良い影響は、腸内環境を改善することだ。これに尽きるという。黒麹と白麹の場合、摂ると腸内環境が改善されて免疫力がアップ、便秘を改善する。なかでも大きなメリットは、酪酸菌を増やすことだ。酪酸菌は、酢酸と酪酸という二つの物質を作る。そして酪酸は、大腸が必要とする栄養の約9割を占めるエネルギー源だ。

   麹を摂った後の腸内の酪酸菌量の変化を棒グラフで示している。多くの被験者が1か月余りで有意差が出る結果になっている。

   そのほかにも、黒麹を摂ると、がん細胞やウイルスに感染した細胞を攻撃するNK細胞や免疫を調整する「制御性T細胞」が増加するという。文晴さんは、「薬でもない麹がこれらの細胞を増やすという結果が出たことは、医者としても本当に驚きの結果でした」と書いている。このほかにもさまざまな健康効果があるようだ。

   次の章では、二人がそれぞれ、塩麹や甘酒、麹水を使った料理を紹介している。10年ほど前、塩麹が爆発的なブームになった。一過性のものと思われたが、定着したようだ。簡単な作り方を紹介している。米麹300グラム、食塩90グラム、水400ミリリットルが材料だ。塩分濃度が11~13%が適度だという。麹と塩を保存容器に入れ、混ぜる。半分の水を入れ、フタをしてそのまま置く。2日目に残りの量の水を入れ、全体をよくかき混ぜる。そのまま1週間から10日程度常温で億。1日1回かき混ぜて空気を入れる。米粒がどろっとしてきて、指でつぶせるくらいに溶ければ発酵完了だ。塩?を使ったレシピも紹介している。

   父の正博さんが、最後に「麹でサスティナブルな暮らしを実現しよう」と呼び掛けている。発酵技術は食べものを作るだけでなく、新しいクリーンなエネルギーを作り出すプロセスとしても活躍しているのだ。バイオマス燃料はすでに実用化している。また、ゴミや残った食品が麹の力で飼料に変身するという。

   ちなみに版元のポプラ社の所在地は東京都千代田区麹町4丁目。麹は古くから日本のどこでも作られてきた、日本独特の文化である。学究肌の親子が科学的に語ることで、より信頼性を増したところに本書の意義が感じられた。(渡辺淳悦)

「麹親子の発酵はすごい!」
山元正博・山元文晴著
ポプラ社
1650円(税込)

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