経常赤字は国内での国債の安定消化に支障をきたす
貿易赤字による経常黒字の縮小、あるいは経常赤字となった場合の影響はどうか――。 まずは、経常利益の構造を簡単に説明すると、国民所得から消費分と投資分を引いたものを、海外の所得の受け取り分から海外への所得の支払い分を引いたものと比較し、国民所得の残りが海外所得の差引分を上回っている状態が国内の資金余剰分=経常利益(経常黒字)に、下回っている状態が経常損失(経常赤字)となる。
つまり、
国民所得-消費-投資>海外からの所得受け取り-海外への所得支払い=経常黒字
国民所得-消費-投資<投資海外からの所得受け取り-海外への所得支払い=経常赤字
となり、経常収支の黒字は国内資金余剰がある状態を示している。
ということは、経常赤字は国内に資金の余裕がない状態、国内の資金や資産が海外に流出している状態を指す。これは、日本の金利上昇につながる可能性がある。
経常黒字の状態は国内に資金の余裕があるため、国内で新規の国債発行を安定的に消化できる。しかし、経常赤字になり、国内に資金の余裕がなくなれば、外国人投資家による国債購入が必要となり、国内で安定的な国債消化ができないという財政リスクプレミアムの高まりにより、金利が上昇する。
もちろん、日銀が大規模な金融緩和のために巨額の国債購入を行っている現時点では、安定的な国債消化を日銀が担っており、金利上昇の可能性は限りなく低いだろう。
現在の円安進行の背景には、日本の貿易赤字とともに日米の金利差があると前述した。だから、経常赤字により日本の長期金利が上昇すれば、日米の金利差は縮小し、円安進行が是正されると考えるのは間違いだ。
米国の長期金利上昇は、景気回復を伴う金融緩和策の修正、金融政策の正常化を背景にしたものであるのに対して、日本の経常赤字、財政リスクプレミアムの高まりによる長期金利の上昇という事態は、「良い金利上昇」とは言えない。
確かに、米国やカナダなども経常赤字だ。だが、日本との大きな違いは、日本が先進国中で最悪の財政赤字に陥っている点だ。財政赤字に加え、経常赤字という「双子の赤字」に陥れば、間違いなく、財政リスクが懸念され、リスクプレミアムによる金利上昇を引き起こす可能性は高い。
原油価格など資源・エネルギー価格の上昇に加え、円安進行による輸入物価の上昇、さらには金利上昇のリスク。コロナ禍にあって、雇用・所得が非常に不安定な状況のなか、国民生活に大きな危機にさらされている。(鷲尾香一)