好きな本はポケットに入るペーパーバック
オススメの一冊をたずねると、あれこれ頭を悩ませてくれた。「見栄えはしないけれど......」と言いながら選んだのは、大谷さんの好きなフランスの詩人ジェラール・ド・ネルヴァルの「火の娘たち」である。
「精神病に長く苦しんだネルヴァルですが、病の間にはとても緻密で面白い作品を書いていた。発表当時の評価は低かったが、20世紀以降に高く評価されます。読み手の受け取り方によって作品の価値が大きく変わるというのも本の持つ面白さだと思います」
やはり、こちらもポケットに入れられるサイズのペーパーバックなのだ。
清田ビルの2階には、大谷さんの書斎のような不思議な空間が広がっている。「すからべ」の窓からは、生き生きとした生活感のあるすずらん通りが見下ろせるが、室内にはまるで現実の喧騒から切り離されたような穏やかな時間が流れている。
大谷さんはその空間の、インテリアの一部のように自然にそこに佇んでおられた。インタビューをしながら、お宅におじゃましているような、不思議な感覚を味わった。
(なかざわ とも)