ワクチンパスポートが「分断」のタネに......
しかし、呼び方を変えただけでは本質的な問題の解決にならない。フランスや米国などでは、ワクチンを接種するかしないかは自己決定権に関わる重大な問題だと捉える人が多い。彼らにとってワクチンパスポートは接種を強要しかねない危険な存在だ。導入に対する反発は根強く、各地でデモも起きている。
特に米国では接種を呼びかける民主党政権に対し、共和党が反発する構図がより鮮明化している。接種証明の扱いは州知事が民主党系か共和党系かでも異なり、フロリダなど接種証明の発行を禁止している地域もある。「分断がいっそう強まっている」との懸念は強い。
実証実験が始まった日本では、ワクチンを接種できない人への配慮が大きなポイントとなりそうだ。先行している欧米では、接種できなくても、陰性証明などがあれば証明書を発行しており、日本でも陰性証明で発行を可能とする見通しだ。
しかし、日本は欧米と事情が異なる。欧米の多くの国では検査が無料で受けられ、検査拠点も街角の薬局など豊富に存在するのに対し、日本の検査は有料なうえ、そもそも検査の拠点数が圧倒的に少ない。
また、接種証明の活用で経済が回れば、感染者が増加傾向をたどる可能性が高い。この間露呈した日本の医療体制の脆弱さなど感染増加に対する許容度は欧米などより小さいとみられている。
不公平感や不安を残したままの「ワクチンパスポート」の導入は、そう簡単ではなさそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)