長らく販売量の右肩下がりが続いているビールが、脚光を浴びている。
業務用ビールを缶にして市場に投入したところ、品切れで販売が一時休止になった商品もあるほど。業務用は新型コロナウイルス禍による自粛で回復がほど遠いが、家庭向け商品のヒットはメーカーにとって久しぶりの明るいニュースだ。じつはこうした「ビール復調」の流れは、コロナ禍の前に、すでに予測されていた。
アサヒ「マルエフ」まろやかな味わいで注文殺到
アサヒビールが2021年9月14日に全国発売した缶入りの「アサヒ生ビール」(通称「マルエフ」)は、殺到した注文に工場が対応しきれなくなり、3日後の17日に販売を休止すると発表した。広告には女優の新垣結衣さんを起用し、彼女にとって初めてとなるビールCMが話題になった面もあるが、長くアサヒの看板商品になっている辛口の「スーパードライ」とは対照的な、まろやかな味わいが消費者に受け入れられたのは確かだ。
じつは1986年に缶商品として発売されていたが、翌年に発売されたスーパードライが大ヒットしたため、マルエフの生産ラインの大半をスーパードライに変更。1993年に缶商品の販売を終え、業務用の樽商品としては供給を続けていた経緯がある。
ちなみに、マルエフとは開発時の社内の呼び名だった「幸運の不死鳥(フォーチュン・フェニックス)」に由来しているという。スーパードライが世に出る前のアサヒのビール事業は低迷が続き、風前の灯火だった。
他のビール会社もキリンとサントリーがそれぞれ「糖質ゼロ」のビールを相次いで発売し、好評を博している。家庭用のサーバーにビールを定期的に配達する事業も伸びている。コロナ禍で外食が難しくなり、家飲みを楽しむ人が増えている面もあるが、消費者がビールを購入しやすくなった点も影響している。
追い風! ビールの減税効果
日本ではビールが贅沢品だった昔の名残で、ビールに対する酒税が高かったため、メーカーはビールに似た味わいで酒税の安いカテゴリーに該当するアルコール飲料(発泡酒、第3のビール)を開発した。
こうしたいびつな構造を是正しようと、3種のビール類の酒税を統一することが2016年に決まった。20年、23年、26年と段階的にビールの税率を下げ、発泡酒と第3のビールの税率を上げるスケジュールで、その第1弾は20年10月に実施された。
第1弾では、350ミリリットル換算でビールは7円減税となり、逆に第3のビールは10円近い増税となった。酒税は本体価格に含まれており、この増減税はビールにとっては追い風、第3のビールには逆風となっている。それは各社の販売に如実に反映され、ビールは好調で、第3のビールには前年割れの商品が多い。
アサヒは休止しているマルエフの販売を21年11月24日に再開する予定だ。マルエフの生産ラインを増強するため、同日に予定していたマルエフの「黒生」の発売は延期することになった。
21年9月の大手4社のビール販売量は、缶商品は好調だったが業務用の落ち込みを補うまでではなく、全体では前年同月比で1割減った。マルエフはビール販売が本格的に復調した兆しなのか、単なるCM効果なのか。業界は注目している。(ジャーナリスト 済田経夫)