専業主婦には365日、「仕事」の休みがない
――投稿者本人も強く反発していますが、問題の背景には「専業主婦は家事をやって当たり前。働いている夫に家事や育児を要求するほうがおかしい」という風潮があります。川上さんが研究顧問をされている、働く主婦層を支援する「しゅふJOB総研」で、この問題に関する調査をしたことがありますか。
川上さん「しゅふJOB総研では、毎年夫の家事・育児について妻にアンケート調査を行っています。2020年の結果は、夫の家事・育児に対して『不満』と回答した人が46.4%でした。参考リンク:「夫の家事・育児2020:既婚女性はどう評価したか?」(しゅふJOB総研)
『不満』と回答した人の中には、『今は働いていない』専業主婦の方もいました。フリーコメントには、専業主婦の方から夫に対する多くの不満の声が寄せられています。
『自主性はなく、指示を待つことが多い。言わないと何もしない』
『妻からみれば少しやっただけだけど、夫は凄く手伝っている、家事をやってやったぞという感じを醸し出す』
『自分には関係のないことだと思っている。汚したことに気づいても、そのまま無視できるのは誰かがきれいにしてくれると思っているから』
『自分ではやっているつもりでいるから、とても厄介』
『育児に口は出してくるのにまったく手伝わない』
自分は専業主婦だから、と夫への不満を抑え込む人もいると思いますが、夫の家事・育児に不満を感じている専業主婦は投稿者さんだけではありません」
――川上さん自身は「専業主婦は家事と育児をやって当たり前。働いている夫に要求するほうがおかしい」という意見についてはどう思いますか。
川上さん「専業主婦であっても、家事や育児の負担度合いはご家庭によってまちまちです。また、家事・育児の得手不得手など個人差もあります。さらに、企業で働く場合は、労働基準法などに決められた最低ラインの休日が取得できます。ところが、専業主婦の『家事・育児の仕事』には365日休みがありません。
働いている夫の大変さやストレスへの配慮が必要なことは当然ですが、休みがない家事・育児にもまた、働くこととは異質の大変さがあります。生まれてすぐは、夜泣きなどで24時間休みがないこともあります。専業主婦だからといって家事・育児をすべて引き受けなければならないはずはありません。まして、投稿者は結婚10年目にして子どもが生まれたばかり。夫と協力し合いながら家事・育児に取り組むこと自体は、まったくおかしなことではないと思います」
――回答者のなかには「夫は管理職という仕事の忙しさにもかかわらず、非常によく家事や育児を頑張っている。それなのに非難されるのは可哀そうだ」という意見が多くあります。また、投稿者が「世間の夫はみんな育休をとっている。なぜ1年間とらないのか」と非難することに対しても、「育休を取る人は少数派だ」「1年間も育休をとったら収入がなくなる」と批判しています。
川上さん「投稿者さんがかなり精神的に追い込まれていることは、間違いないように思います。注射などの痛みへの耐性に個人差があるように、家事・育児の負担度合いの感じ方にも個人差があります。 ただ、育休に関しては、回答者の一部にも誤解があります。育休取得中は育児休業給付金(編集部注:さまざまな条件があるが、通常、6か月までは賃金の67%、6か月以降は50%)が支給されるので、育休を取得したらすぐに収入がなくなり生活面で困るわけではありません。
厚生労働省の調査によると、男性の育児休業取得率はまだ12.7%にとどまります。確かにまだ少数派ですが、育休取得のネックは、業務から離れることによって出世街道から外れたり、上司や同僚から理解が得られなかったりと、キャリア形成上のマイナスが想定されることにあるように思います。投稿者の夫の職場が、育休取得によってキャリア上の不利益が発生しないよう配慮できているかどうかは大切なポイントになってくるはずです」