屈指の進学校「開成高校」100年超の伝統に培われた強固な人脈を岸田首相は活かせるか?(大関暁夫)

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   我が国の新たな首相に自由民主党の岸田文雄氏が就任しました。

   政治面以外での新首相関連の話題は、まず日本の歴代首相としては、初代の伊藤博文から数えてちょうど第100代の記念すべき首相であること。そしてもうひとつ、全国でも指折りの進学校である開成高等学校(東京都荒川区)の卒業生として初の首相であるということが、メディアで紹介されています。

   個人的な話で恐縮ですが、岸田首相は高校時代に同じ時を同じ校舎で過ごした、私の2年先輩にあたります。開成は受験校としてだけでなく伝統ある私立高校として100年超の歴史に裏打ちされた特徴的な風土がありますので、今回は開成高校出身の岸田首相にどんな期待が持てそうか、私感を書いてみます。以下、雑談的にお読みください。

  • 開成高校出身で初めて首相に就いた岸田文雄氏(2021年撮影)
    開成高校出身で初めて首相に就いた岸田文雄氏(2021年撮影)
  • 開成高校出身で初めて首相に就いた岸田文雄氏(2021年撮影)

人間関係の緊密さを培う大運動会

   開成高校OB最大の特徴は、その縦・横・斜めの人脈における人s間関係の緊密さにあります。単純な愛校心によるOB間のつながりということであるならば、慶応義塾大学のOB組織である三田会なども、財界などでその存在感の大きさは確かにあります。

   しかし、開成のそれは、根底にあるのが単純な愛校心ではなく、中高6学年全員参加の学生自主運営による大運動会の開催に携わったという卒業生全員の共通体験に裏打ちされた同胞意識なのです。

   開成高校では高校2、3年はクラス替えがなく、同じクラスメイトと2年間を過ごします。いつからそのような制度になったのかは不明ですが、基本的はこの制度は3年生が開催主体となる中高全校の一大イベントである大運動会を円滑に運営させるためのものであるとされています。

   運動会の準備は高校2年のクラスが決まった瞬間に始まり、1組=紫、2組=白、3組=青...と8クラスが色分けの下、基本は高校3年生をリーダーとして全6学年が8色に分かれ学年ごとの種目で戦うのです。

   高校2年になると、同じ色の3年生の運動会運営を手伝いながら、そのやり方を見て学びます。中学1年生から高校2年生までのすべての競技は、技術指導、戦略立案、実践指揮まですべて高校3年生が担当します。ですから、クラス全員が中1係~高2係、桟敷のシンボル画のデザイン・執筆を担当するアーチ係、学生が自作して全員で合唱するテーマ曲を指導するエール係など、どれかの係に必ず属し、全員協力の下で組織として運動会に向けて準備を進めるのです。高校2年から1年がかりで、全員一丸で運動会当日に向けて進むわけなのです。

「異例の人事」の背景に開成人脈

   この学園生活最大のイベントである大運動会を通じて培われた強固な人間関係は、半端な同朋意識ではなく、たとえ面識のない者同士であっても、ひとたび卒業生とわかれば、何かあればいつでも集まって協力するという、稀にみる結束力を持った目に見えない集団として常に存在していると言っても過言ではありません。

   従い、岸田政権はこの開成で培われた分厚いOB人脈の活用と、首相自身を中心としたチームワーク重視の政治姿勢こそが、国民の期待に応えるに足るものになるか否かの大きなカギを握っているとみています。

   OB人脈に関しては、すでに新設で組閣の目玉ポストである経済安保担当大臣に当選3回の若手、小林鷹之氏を抜擢。さらに筆頭秘書官である政務秘書官には、前経済産業省の事務次官の島田隆氏を指名・登用し、早々に開成人脈を活用する手に打って出ています。

   嶋田氏は私と同級生で岸田首相の2年後輩。彼に関しては、経済産業省の事務次官時代に管轄の商工組合中央金庫で制度融資を巡る不祥事があり、民間からのトップ登用を検討するも、軒並み断られ当時、自民党政調会長であった岸田氏に相談。氏の開成時代の同級生で、第一勧業銀行(現みずほ銀行)で総会屋事件からの立て直しや西武グループで鉄道、ホテル事業の立て直しに実績のあった関根正裕氏を口説き落としてもらったという、開成人脈での恩義があります。

   今回、元事務次官が首相秘書官に就くという異例の人事は、先輩への恩返しの意味もあるように思えます。

岸田「中小企業的」政権の武器!?

   開成出身の政治家は決して多くはないのですが、官僚は圧倒的に多く、少数の議員と官僚の計600人ほどで構成され実質的に岸田氏の応援同窓団体である「永霞会」という集まりも存在しています。

   政治家にとって官僚との意思疎通は政権運営の生命線でもあり、今後の政策立案・実行において大きな力になることは確実でしょう。

   また財界でも、大先輩である実業界のドンである読売新聞社主筆の渡邉恒雄氏をはじめ、後輩にもマネックス証券の創業者である松本大社長、ベンチャー界には佐々木大輔freee最高経緯責任者等々、多くのOBが重要なポジションで活躍しており、今後恐らくこれらの人脈に要所要所で協力を得ながら、チームワーク重視で政権運営に当たっていくのではないかと思われます。

   岸田政権は過去の安倍政権ように、自民党主流派の圧倒的な後ろ盾を持つような政権ではないようです。むしろ大企業に相当する主流派派閥に気を遣いながら政権運営するという意味では、菅政権と同じく中小企業的政権であるといえそうです。

   大企業を怒らせたら、吹けば飛ぶような中小企業が、世間の荒波を乗り越えて生き抜いていくためには、人脈とその有効活用による協力体制をもって、力強さを表していく以外にないわけなのです。それができなかった菅政権は結局短命に終わってしまったわけであり、岸田首相には、ぜひ中小企業経営者にとっても手本となるような、人脈とチームワークのあり方は見せて欲しいと思っています。あくまで一後輩として、先輩のご活躍・ご健闘を心よりお祈りする次第です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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