「日本は氷山にぶつかるタイタニック号」
「今の日本の状況をたとえれば、タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものです。氷山(債務)はすでに巨大なのに、この山をさらに大きくしながら航海を続けているのです。タイタニック号は衝突直前まで氷山の存在に気づきませんでしたが、日本は債務の山の存在にはずいぶん前から気づいています。ただ、霧に包まれているせいで、いつ目の前に現れるかがわからない。そのため衝突を回避しようとする緊張感が緩んでいるのです」
それなのに衆院選を控えて、各政党は古代ローマ時代の「パンとサーカス」のように大盤振る舞いを競い合う。日本の財政赤字はバブル崩壊後、悪化の一途をたどり、「一般政府債務残高/GDP」は256.2%と、終戦直後の状態を超えて過去最悪。ほかのどの先進国よりも劣悪な状態だ。
ちなみに、ドイツは68.9%、英国は103.7%、米国は127.1%だ。
さらに、矢野次官はこう続ける。
「国民は本当にバラマキを求めているのでしょうか。日本人は決してそんなに愚かではないと私は思います。日本人みんなが『カネを寄こせ』と言っているかというと、そうではない」
実際に、国内では家計も企業もかつてない『カネ余り』状況にある。企業では、内部留保や自己資本が膨れ上がっており、現預金残高は259兆円(2020年度末)にものぼる。
「コロナ禍にあっても、マクロ的には内部留保のうち現預金が減っていません。また家計においても、最も低い所得階層を含むすべての階層で貯蓄が増えています」
と、このような経済状況では昨春のように10万円の現金給付のようにお金をバラまいても、死蔵されるだけで意味のある経済対策にほとんどならないというのだ。
まだある。岸田政権などが掲げる大規模な補正予算も逆効果だと指摘する。
「『大幅なGDPギャップを埋めるためには大規模な補正予算が必要だ』という声も聞かれますが、どんなに追加の歳出を計上しても、実際に最終消費や投資に回されなければ、需要創出につながらず、GDPギャップは一向に埋まらないのです。そればかりか過剰な給付金や補助金は、かえって企業の競争力を削ぐことになり、日本経済の活力をも劣化させてしまいます。『コロナ禍なのに、過剰だなんて何を言っているんだ!』と言われそうですが、国際的に見て日本が相対的に甘美なことを続けていると、日本の競争力はますます欧米と水を開けられてしまいます」
といった、シビアな「直言」が続く。
そして、「心あるモノ言う犬」の一人として、将来必ず日本は氷山に衝突するという「不都合な真実」を国民に知らせて関心を高めたうえで、財政再建に取り組んでいきたいと結ぶのだった。