岸田政権の経済政策は「アベノミクス」の修正 「金融所得課税」早くも後退、長年の課題が進展しないワケとは?

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「金融所得課税」は投資意欲に水を差す

   格差是正につて、もっと大きな政策は金融所得課税の見直しだが、所信表明では言及しなかった。

   10月4日の組閣後の記者会見では金融所得課税について、「選択肢の一つとして(総裁選で)上げさせてもらった」と述べ、具体的に「1億円の壁」に言及している。これは、年収1億円程度をピークに、所得税の実質負担率が、所得が増えるにつれて下がっていくことを指す。

   給与所得などは所得が多いほど税率が高くなる累進税率になっていて、最高税率は住民税を含め55%(課税所得4000万円以上)。一方、株式譲渡益、配当金、預貯金利子などの金融所得への課税は、その額に関係なく一律20%(所得税15%、住民税5%)だけだ。このため、所得に占める金融所得が多い富裕層の実質的な税負担率が下がる傾向にある。

   ここに手を付けようという岸田首相の発言だから、注目された。ただし、長年論じられてきたテーマであり、実現していないのにはそれなりの理由がある。

   政府は「貯蓄から投資へ」と、株式などへの投資を増やし、経済成長を後押ししようとしてきただけに、金融所得課税は投資意欲に水を差すとの懸念が市場にはある。

   マイナンバーによる所得の捕捉で、金融所得を含む所得全体を把握。累進税率をかける「総合所得」が、最も公正な制度であり、長年のテーマだが、これも投資意欲を削ぐとの反対論が根強い。

   20%の税率引き上げが自民党内では有力視されている。だが、少ないとはいえ中低所得者にも等しく及ぶだけに、仮に税率を20%から25%に上げた場合、たとえば少ない金融資産から年間10万円の配当などの収入があり、税引き後8万円を家計の足しにしている人は。7万5000円になってしまい、庶民のなけなしの蓄えの収入からも搾り取るのか、と反発は必至。金融資産が多い人に限って税率を高くする案もあるが、資産額の把握、線引きなど技術的に問題も多い。

   日経平均株価は、岸田政権の発足を挟んで8日続落した(10月7、8日は上昇)。さまざまな要因が絡んでいるとはいえ、金融所得課税問題も下落の一因との見方もある。

   立憲民主党など野党は、金融所得課税の強化を衆院選公約に掲げ、11日の代表質問で、立憲民主党の枝野幸男代表が「具体的にいつまでに、どうするのか」と質した。岸田首相は10日出演したテレビ番組で「当面は金融所得課税について触ることは考えていない」と明言。枝野氏への答弁でも、「金融所得課税の見直しは選択肢の一つ」としつつも、「賃上げに向けた税制の強化や下請け対策の強化など、まずやるべきことがたくさんある」と述べ、金融所得課税は先送りする考えを改めて示した。

   格差是正に向け、税制はいわば切り札とも言える手段であり、総選挙でも与野党の争点になりそうだ。(ジャーナリスト 岸井雄作)

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