辞めても行くところがある
中野さんは、これだけ若者不足が深刻化しているにもかかわらず、どうして経営者や管理職が「今の若者はけしからん」「不況になれば人手不足なんか解消する」といった甘い思い込みを持っているのか、と書いている。
今の若者は決して豊かではないという。日本学生支援機構の「平成30年度 学生生活調査」によると、奨学金を受給している学生の割合は大学(昼間部)で47.5%に達する。奨学金を得て在学しているからには、よく勉強するしかない。
若者と中高年の認識ギャップの中で最も驚くのが、「将来見込み」だという。中高年は高度経済成長やバブル経済など、頑張れば上昇できるという目標があったが、今の若者にはそれがない。
だから、入った会社が面白くなければ辞める。今や企業全体、1000人以上の企業規模でも40%近くが中途採用しているのだ。転職市場は活発化している。
辞めても行くところがあるとわかっている若者は、理不尽なことや耐えられないことがあるとすぐに会社を辞めるという。中野さんは、大卒者の離職が目立つようになったのはここ数年のことだ、と書いている。
いくつかの傾向を指摘している。まず、営業職を嫌がること。絶対に達成しなければならないという目標にプレッシャーを感じてしまう。中高年男性の多くは若い女子を評価する傾向があるが、中野さんは「大学生の女子に関してはチャンスにも恵まれている一方で、若い男子は苦しんでいるということです」と、男子をカバーしている。
こう書くと、中野さんが若者に甘く、企業に厳しいように思われるかもしれないが、決してそんなことはない。「自己承認欲求が強いわりには自己主張できない若者」とか「浸透しきっているブラック嫌い症候群」などの表現で中立的に見ている。
公務員や役所でさえブラックを理由に就職を避ける学生がいる。身分保障のある公務員でさえブラックと見なし、よりブラック度の低い役所に行こうとするという。
さらに厳しい表現も出てくる。「呆れかえるくらいの地元志向と情報過多で身動きが取れないスマホネイティブ達」というくだりを読むと、教員として悩んでいることも理解できる。