東京機械製作所の魅力は「厚い蓄え」にある
業績では目立たない東京機械製作所に、アジア開発キャピタルが目を付けたのは、その蓄えの厚さゆえだ。仮に事業活動を終了して借金をすべて返済しても、残る金額を示す純資産は87億円あり、総資産の50%超に達する。経営の健全性を示す自己資本比率は47%(いずれも2021年3月末)で、これも高い水準を示している。
蓄えを厚くしている背景には、主な顧客である新聞社の経営が厳しく、先細りが明らかだからだ。東京機械の有価証券報告書の「事業等のリスク」の項目には「新聞業界は、インターネットの普及に伴い、新聞購読者数の減少及び広告収入が減少しており、新聞社の設備投資に対する慎重な姿勢が続いていることから、新聞用オフセット輪転機の市場は縮小傾向」と明記している。新聞社にとって輪転機の更新は巨額投資であり、現下の経営環境では慎重にならざるをえない。
このままでは先行きは厳しいと判断して厚くしてきた蓄えは、アジア社側にとっては投資や株主還元に活用しないムダな蓄えに映った。アジア社側は「(東京機械の)株式価値が、市場から著しく低廉に評価されている」と指摘したうえで、現経営陣に経営を委ねながら企業価値、株式価値を向上させる」と表明している。
ちなみに、2021年の年初には200円台だった東京機械の株価は、春先からじわじわ上昇。アジア社の大量保有が持ち上がると急騰し、9月10日に一時、3720円を付けた後に反落して、直近で1500円程度になっている。
香港系のアジア社側による東京機械株の買い増しを巡っては、日本政府が状況把握に向けて情報収集を始めたとも報じられた。経済安全保障の観点から注視しているとされ、単なる企業買収にとどまらない可能性もある。
(ジャーナリスト 済田経夫)