ホンダが国内の自動車大手では初めて、新車販売をすべてオンラインだけで受け付けるサービスを始めた。日産自動車など、ほかのメーカーにも追随する動きがあるという。
ああ、あの新車を試乗してハンドルを握った時のワクワク感! そして販売店のディーラーと値引き交渉をして、端数の数万円をまけさせた時の快感!
そんな新車購入時の「お約束文化」はもう過去のものになるのだろうか――。ホンダの担当者に聞いた。
超人気の「N-BOX」「フィット」など4車種が対象
2021年10月4日から始まったホンダの新車オンライン販売の動きを、NHKニュース(10月4日付)「ホンダ 国内初の『新車オンライン販売』開始」がこう伝える。
「ホンダは、クルマのオンライン販売を始めました。新車の購入がインターネットで完結するのは、日本の自動車メーカーでは国内で初めてとなります。専用サイトで扱うのは、販売台数が多い軽自動車など主力の4車種で、納車や点検はこれまでどおり販売店で行います。
ネットによるクルマの販売は、東京都内に在住する顧客であることなどが条件で、対象エリアは徐々に広げていく方針です。また、はじめはリース販売から開始するということで、今後販売店と同じように、現金払いや自動車ローンなどでの販売も始めることにしています。
クルマの販売は、店頭での商談が一般的でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、人との接触をなるべく避けて購入したいというニーズが高まっていて、ホンダとしては、オンライン販売を通じてこうしたニーズに応える狙いがあります。また、クルマ離れが指摘されている若い世代のスマートフォンを通じた購入にもつなげたい考えです」
具体的にはどうやってオンライン販売を行うのか。ホンダの発表資料「ホンダ、新車オンラインストア『Honda ON』をオープン」によると、正確にはNHKが伝える「リース販売」ではなくて、「サブスクリプション(定額課金)販売」という。
サブスクリプションとは、「料金を支払うことで、製品やサービスを一定期間利用することができる」形式のビジネスモデルのこと。「リース」などのレンタルサービスは基本的に利用できる期間が過ぎると返却しなくてはならないが、ホンダの「サブスク」は料金を支払い続ける限り返却する必要がなく、利便性が高いのが特徴だ。
オンラインの取り扱い車種は「N-BOX」「フィット」「フリード」「ヴェゼル」の4車種のみで、現在の売れ筋ばかり。スマートフォンのアプリをスクロールして、タイプ、オプションをセレクト。カーナビなどの基本的なオプション、自動車税、点検・車検、交換部品などのメンテナンス費などをすべて含み、期間途中の中途解約や乗り換え・買い取りも可能だ。
月額利用料は、N-BOXで3万1610円、フィットで4万2550円、フリードで4万8850円、ヴェゼルで4万8460円からとなっている。
オンラインは若者と販売店を結び付ける橋渡しの役目
J-CASTニュース会社ウォッチ編集部が、ホンダ本社広報部の担当者に聞いた。
――今回のオンライン販売は、主にジェネレーションZ((1990年代半ばから2000年代前半生まれの世代))を対象にしているといいますが、年配者でスマートフォンが得意ではない世代は、今後ホンダのクルマを買う時はどうしたらよいのでしょうか。
広報担当者「引き続き販売店のHonda Cars(ホンダカーズ)に足を運んで、従来どおり購入していただきたいと思います。今まで販売店に来なかった層をオンラインで取り込んで、クルマを買っていただくために始めるわけですから、ターゲットはZ世代がメインです。また、家が遠くて販売店に来られない人や、新型コロナウイルスが怖くて対面販売が苦手の人なども対象です。
オンライン販売を始めるからといって、販売店の数を減らすわけではまったくありません。『ディーラーの仕事がなくなるのではないか』という声がありますが、納車や修理・点検のサービスは販売店が担います。むしろ、オンラインによって、こういったお客様と販売店を結び付ける橋渡しの役目と考えています」
――クルマを購入するのは通販で電気製品を買うのとはわけが違います。実際に現物に触れてみたい、試乗して運転しやすいかどうかを確かめてから購入を決めたいという人がとても多いです。試乗したいという人は、どうしたらよいのですか。
広報担当者「ホンダの系列に会員制のホンダ車レンタカーサービスの『EveryGo』(エブリゴー)があります。また、ホンダの中古車を最短で1か月から利用できるサブスクリプションサービスの『Hondaマンスリーオーナー』もあります。試乗したいお客様は『Honda On』を通じて、その二つにオンラインで会員登録をしていただくと、活用することができます。会員登録をしていただくと、割引クーポン券を差し上げます」
――けっこう面倒くさいですね。
広報担当者「『EveryGo』は、NPCなどのコインパーキングに置いていますから、そこで試乗することもできます」
――「オンラインで新車購入」と銘打っていますが、「サブスクリプション」(定額課金)という形です。NHKや朝日新聞(10月5日付)も「リースで新車を販売する」と書いています。インターネット上では、「なんだ、リースか。レンタルと同じじゃないか。一括購入じゃないのか?」という疑問の声もあがっています。
広報担当者「確かに10月4日スタート時点では、月額のお支払いという形です。今後は従来どおりの一括キャッシュや分割ローンなど、購入方法の選択肢を広げていく考えです。今回はなかなかクルマを購入していただけないZ世代に、まずは気楽にクルマの購入を考えていただくために、サブスクリプションの手軽さをアピールしました。サブスクリプションの良いところは、気に入らなければいつでもやめられるということです」
――オンラインだと最初から試乗がしにくいから、乗ってみてやめたくなった場合のことも考えたのですか。
広報担当者「そういう面も考慮に入れました」
「メーカー希望小売価格の明朗会計、値引きはしません」
――クルマを買う時は、販売店に前のクルマをいくらで下取りしてもらうか、また新車の代金をいくら割り引いてもらうか、値引き交渉が醍醐味だという人が多いです。オンラインでは値引き交渉が不可能です。しかし、『販売店を通さない分、安くなるのではないか』と期待する人が多いです。価格はどうなるのでしょうか。低く抑えられるのでしょうか。
広報担当者「基本的に値引きはありません。メーカー希望小売価格を月割にして、それにオプションで自動車保険や車検代などをプラスしていただきます。『直販だから安くなるのでは』という声がありますが、購入手続きをオンラインがしているだけで、納車や修理・点検は従来どおり販売店が対応しますから、コストを削減しているわけではありません。
オンラインでは、ちゃんといくらかかるか、すべての経費を明示しますから、会計が明朗化してお客様にとってはわかりやすくなると思います」
――しかし、販売店でクルマを購入する際、たとえば、「全部で173万4000円ですが、端数の3万4000円は勉強させてもらいます」などと安くしてもらうことはよくありますよ。明朗会計といいますが、ああいう値引きは不明朗会計だったということでしょうか。
広報担当者「(値引きに関しては)販売店によって対応が異なりますので、メーカーサイドからは申しづらいです。オンライン販売では、一つのクルマに『ワンプライス』ということになります」
――クルマの購入の際には、印鑑証明や戸籍抄本、車庫証明書など、印鑑が必要な書類もあります。すべてをオンラインだけではできないはずです。
広報担当者「そうした印鑑が必要な一部の書類は、郵送手続きをしていただくことになります」
(福田和郎)