「安倍カラー」がいちだんと薄れていく
岸田氏の登場によって、経済政策では「安倍カラー」がいちだんと薄れていくだろうと指摘するのは野村総合研究所の木内登英・エグゼクティブ・エコノミストだ。「岸田政権の発足と期待される経済政策」(9月30日付)の中で、脱アベノミクスを目指しているとして、こう指摘する。
「岸田氏は、小泉改革以降の新自由主義的な政策を転換させる、と発言している。『小泉改革は格差を拡大させた』という従来の野党の批判を受け入れたような印象である。そして、アベノミクスの『3本の矢』を意識して、大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の『3本柱』を堅持する、としている。これはアベノミクスの継承を示しているようだが、3本目から『構造改革』という言葉を外している。岸田氏は、構造改革は新自由主義的政策であり、それは格差を拡大させてしまう望ましくない政策、と整理しているためだ。
そこで岸田氏の構想を改めてチェックしてみると、科学技術&イノベーションを促すための10兆円ファンドの創設、半導体、AI、量子、バイオ等先端科学技術での研究開発税制・投資減税の強化、デジタル円をはじめ金融分野におけるデジタル化推進、新たなクリーン・エネルギーへの投資支援、5Gなど地方におけるデジタル・インフラの整備(デジタル田園都市国家構想)、東京一極集中の是正など、通常構造改革と考えられる具体的な施策をじつに多く盛り込んでいる。
岸田氏は、格差縮小をアピールするために、構造改革に対して否定的なイメージを示したが、世間一般で言われる広義の構造改革にはかなり前向きであり、実質的には『構造改革論者』と言えるのではないか」
そして、木内氏は岸田政権に次の3つを期待するのだった。
「第1は民間レベルでのデジタル化推進だ。その一つとして、信頼性の高い中銀デジタル通貨(CBDC)の発行を通じて、キャッシュレス化を進めることが、経済の効率化向上に貢献するだろう。現金利用に伴う感染リスクが広く意識されやすい現状は、そうした政策を進める好機でもある。それに関連して、支払い履歴などのビッグデータの利活用推進も重要だ。
第2は、東京一極集中の是正である。感染リスクへの警戒や、リモートワークの広がりを背景に、地方に移住する人や地方に移転する企業の流れが続いている。それによって、地方に埋もれてきた土地、インフラ、人材を活かすことができれば、日本経済全体の効率化向上につなげられる。また、省庁の地方移転を進めることで民間の移転を促すことも、東京一極集中の是正には重要な施策だ。
第3は、菅政権が実現できなかった中小企業あるいは飲食、小売、旅行関連などサービス業の生産性向上だ。これらはコロナ問題で最も打撃を受けている分野であり、また、国際比較で生産性が低い分野でもある。コロナショックを奇貨として、業種転換、M&Aなどを通じ、こうした分野の改革を進めることで、経済全体の効率を高めることができるだろう」
そして、こう結ぶのだった。
「このように、新たに岸田政権のもとでは、日本経済が抱える最大の問題である低い生産性を解消させるような構造改革、成長戦略が、コロナ対策と一体的に推進されることが強く望まれる。金融・財政政策に過度に依存する安倍カラーの強い経済政策の枠組みから脱却し、金融市場の安定により配慮したマクロ政策が打ち出されていくことにも大いに期待したい」
(福田和郎)