「デジタル化の推進政策」は期待できそうだ
熊野氏は、「所得倍増」の夢の実現はかなり厳しいと指摘。ただ、期待を寄せるのは「デジタル化の推進政策」だ。
「成長戦略として、岸田氏はデジタル化を唱える。すでにデジタル庁が設立されている。岸田氏の独自性は、そうした行政のデジタル化を地方にも波及させようとしている点だ。『デジタル田園都市構想』は、東京など大都市ばかりではなく、地方都市でも大都市並みにデジタル・ツールを使って仕事ができるように、インフラ整備を進めようという構想だ。
コロナ禍では、役所でもテレワークが広く実施された。また、オンライン診療やオンライン教育も過去1年間でより普及した。構想よりも現実が一歩進んで、流れがつくられた感がある。今後、岸田氏は、医療・教育など政府も関与が大きい分野で、さらに遠隔サービスの活用を広げられるか、その手腕が問われる」
さらに、熊野氏が注目するのは、金融政策の正常化だ。日本銀行と距離を置いていた安倍・菅政権よりは、その関係がよくなるだろうというのだ。
「過去に岸田氏は、金融緩和の出口に言及したことがある。ゼロ金利・マイナス金利に苦しんでいる事業者の間では、『岸田氏ならば、出口戦略を実現してくれそうだ』という期待感があると思う。しかし、この問題を現時点で岸田氏に問うと、きっと『成長なくして出口なし』と返答するだろう。財政再建と同じく、出口戦略の優先順位は、成長戦略の後になるだろう。岸田氏が、衆議院選挙で勝利して、さらに2022年7月の参議院選挙でも勝利を重ねて、長期政権になった後で、金融政策の出口は見えてくると予想される。
日銀と政府との関係は、今後変わっていくチャンスはある。岸田氏は、成長と分配の好循環をつくるために『新しい日本型資本主義』構想会議(仮称)を設置する予定である。その中に日銀総裁も入れば、日銀との意思疎通はより深まると考えられる。黒田東彦総裁も、任期が1年半を残すのみになった。だから、日銀は岸田政権が長期政権になった後は、次の総裁になってから、従来とは異なる路線で出口を検討することができると予想される」
そして、熊野氏はこう結ぶ。
「試金石は、審議委員の人事だ。脱リフレの人選ができるのだろうか。次に来るのは、鈴木人司氏と片岡剛士氏の任期満了(2022年7月)である。この人事で、岸田氏の意向がどう働くかをみてみたい」