コロナ休業時の給料は?
第2部では場面別に災害対応の法律問題を解説している。たとえば、従業員・労働者との関係では、業務継続か休業か、休業時の賃金をどうするかなどの問題を取り上げている。
具体的に、新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が発令された際の居酒屋チェーンで営業自粛時に給料をどう手当てしたらいいか、というケースを検討している。
新型コロナウイルスによる営業中止が不可抗力かどうか、政府が明確な方針を出さなかったこともあり、専門家の間でも判断が対立しているようだ。また判例も確立していない。
本書では、不可抗力による休業と考え、従業員に対する賃金の支払い義務は免除されると説明している。しかし、それが社会的に正しいかどうかは別問題だとして、自然災害で休業を余儀なくされたケースと比較して、検討している。
大災害時には、「雇用調整助成金」と「雇用保険」の特例があり、実際に新型コロナウイルスへの対応でとられた措置を説明している。
さらに、株主・オーナー経営者との関係、取引先・顧客との関係、近隣・来場者・地域との関係など、いくつかの場面を想定しているので、役立つだろう。また、企業以外の地方自治体、学校、病院・医療機関、介護・福祉施設、自主防災組織、NPO・ボランティア団体を想定した対応にも触れている。
法律家がここまで、さまざまな主体と場面を想定して、災害対応に備えていることに驚いた。しかし、実際の裁判例などを題材としているので、絵空事ではない。津波避難に関する学校の責任という項目では、東日本大震災時、石巻市立大川小学校で児童74人、教職員10人が死亡・行方不明となった津波被害と、その裁判について詳しくふれている。
高裁判決では、「安全確保義務」と「組織過失」を認定し、結論として国家賠償責任を認めた。
本書の副題は、「事業継続のために何をすべきか」となっている。企業や組織の防災担当者ではなくても、災害法務の実践の考え方を知っておくのは有益なことだろう。
新型コロナウイルスへの対応が自然災害と比べて検討されていることにも驚いた。ある意味、これ以上ない「天災」だったかもしれない。(渡辺淳悦)
「防災・減災の法務」
中野明安・津久井進 編
有斐閣
3850円(税込)