国内海運最大手、日本郵船の株価が足元で連日、年初来高値を更新している。2021年に入って、ずうっと右肩上がりに上がり続けている状態だが、特に7月下旬から騰勢を強め、9月下旬になってもその勢いが止まらない。
海運市況(船で荷物を運ぶ代金)の高騰が続いていることから、業績が一段と向上するとの見方から、買いが入っている。
世界の株価を揺るがす中国の不動産大手、中国の恒大集団の債務問題も海運市況への影響は限定的との見方があり、多少足踏みしたとしても当面はさらに上値を追う可能性があるとの見方が出ている。
堅調な業績に裏打ちされた株価の上昇
日本郵船の年初来安値は2021年最初の取引があった1月4日の2345円。一方、年初来高値を更新した9月27日の高値は1万1300円。約9か月で約4.8倍という驚異的な伸びを見せている。この間の上昇が急ピッチだったため、さすがに28日は反落したが、2007年の上場来高値(1万2760円)が視野に入ると言っても良いかもしれない。29日の終値は9340円だった。
そうとはいえ、投機マネーに翻弄されているというわけでもなく、堅調な業績に裏打ちされた株価上昇との見方が多い。日本郵船が8月4日に上方修正した2022年3月期の業績予想によると、連結最終利益は前期比約3.6倍の5000億円と過去最高を更新する見込み。この上方修正は従来予想の3500億円から1500億円も上積みするものだった。
また、同時に発表した配当予想も従来の年間200円(前期実績と同額)から一気に700円に上方修正したことで、今夏の株価上昇に拍車をかけることになった。
配当を大盤振る舞いするとはいえ、見込みどおりなら日本郵船自体の財務体質も大幅に改善する。これにより、脱炭素時代に向けて船の燃料を重油からアンモニアなどの次世代燃料に転換するといった意味のある投資に回せる資金も出てくる、という見方も株価上昇を後押しした。
海運業者にとって、「コンテナ船」と「ばら積み船」が2本柱。その他に自動車輸送、石油製品を運ぶタンカーも有力な事業だ。
ばら積み船は、石炭や鉄鉱石、穀物といったさまざまな資源を梱包せずに大量にそのまま輸送するスタイル。そのばら積み船運賃の値動きを示す「バルチック海運指数(1985年=100)」は2021年、上昇を続けており、9月23日に4651と12年ぶりに4600台を回復。9月下旬の株価上昇の大きな材料となった。
年末商戦控え、コンテナ船も運賃上昇
一方、日用品や家電、衣類などをコンテナにつめて運ぶコンテナ船も年末商戦を控えて輸送需要が高まる時期を迎えており、運賃下落は見込みにくい。ちなみにコンテナ船は日本郵船、商船三井、川崎汽船の国内大手3社が世界の大手に対抗するため事業統合し2018年に共同出資会社「オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)」が運航を始めた。
220隻以上の船隊を擁し、コンテナ船として世界6位の規模。この経営効率化が効果を出し始める局面で、運賃上昇という追い風を受けることになった。
世界の海運市況は、コロナ禍から需要が回復するところで21年3月末のエジプト・スエズ運河の座礁事故や、新型コロナウイルスに作業員が感染した中国の輸出港での稼働停止といった運航の「目詰まり」が相次ぎ、それがコンテナ船やばら積み船の運賃上昇に拍車をかけ、その勢いが衰えないまま年末商戦期を迎えた。
ただ、石油製品のタンカーの運賃は上昇とはほど遠い状況で、自動車輸送も半導体不足による生産台数減少の影響を受けそうだ。日本郵船が2022年3月期に最高益を更新したとしても、その後もさらなる成長軌道を描けるのか。世界の投資家はこの辺りを見極める段階に入っているとも言えそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)