スズキの哲学
軽自動車の「制約」を逆手にとり、徹底的にムダを廃して必要な部分を磨き上げる。アルトの発想はそこに尽きると言えるでしょう。そのためには技術者が、徹底的に軽自動車を勉強しなくてはいけない。「勉強して競争しろ」は、一貫して鈴木氏が口にしているスズキの哲学でもあります。
鈴木氏と技術者たちの勉強の結果がアルトであり、同じく大ヒットを続ける「軽」のワゴン車「ワゴンR」であるのです。ちなみに、アルトは「あると便利」から名付けられ、ワゴンRは「軽のワゴンである」をモジったものだと言います。いずれも名付け親は、鈴木氏。その人柄がうかがわれるエピソードです。
軽自動車戦略と並ぶ鈴木氏のもう一つの大きな功績は、インドマーケットの開拓です。鈴木氏は早くからアジアに着目し、1970年代に隣国パキスタンに進出。80年代初頭、国民車構想を掲げたインドが、日本企業との提携を模索。インド政府に選ばれて82年にインドの国営企業との合弁生産に合意しました。
パキスタンやインドに注目したのは、「№1になれるマーケットであったから」と、鈴木氏は回述しています。「どんな小さな市場でも1番であるべし」は、鈴木氏の経営哲学の柱の一つです。以来、インド国内のシェアは50%超を堅持。スズキの重要マーケットとして、同社の発展に大きく寄与しています。
鈴木氏は、「他者の力を借りて自社の糧とするのは、中小企業たるわが社のあるべき」と胸を張っています。
国内外の大手企業との関係でも、「中小企業」であるスズキの「技術力や資本力の不足を補う提携」として同様の戦略を貫いてきました。米ゼネラルモーターズ(GM)や独フォルクスワーゲンとの提携や、2019年には国内でトヨタ自動車とも資本提携しています。