日本のマネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金対策が改善を迫られている。
国際組織の審査で、規模の小さい金融機関などの対応、政府の法整備などが不十分と判断され、「事実上の不合格」との見出しが大手紙の紙面に踊った。日本の実情は、どうなのか。
日本、審査11項目中8項目が基準満たさず
資金洗浄は、犯罪で得た資金を偽名口座に移したり、口座から口座へ転々と動かしたりして出所をわからなくしたり、テロ組織に資金を供給する行為。特に2001年の米同時多発テロ以降、国際的に規制が強化されている。
そうした世界の取り組みを評価する国際組織「金融活動作業部会」(FATF)は1989年に設立され、現在は39の国・地域・国際機関が加盟し、200以上の国・地域にマネロン対策を勧告する。
FATFは2021年8月30日、対日審査結果を発表し、3段階のうち、真ん中の「重点フォローアップ国」と評価した。日本への審査は13年ぶりで、審査結果が公表されている29か国・地域の中では、米国やカナダ、オーストラリア、スイス、中国、韓国など18か国と同じランクだった。
事実上の合格となる「通常フォローアップ国」は英国、イタリア、スペイン、ロシアなど8か国にとどまる。
日本は、「落第」ともいえる最低の「観察対象国」(アイスランド、トルコの2か国)は免れたものの、判定はギリギリだった。審査11項目のうち9項目が基準に満たず、2項目が最低評価だと「観察対象国」になるが、日本は8項目が基準を満たさなかった。今後5年間で改善状況をFATFに3回報告する義務がある。
この結果について、日本経済新聞と産経新聞が8月31日朝刊で「不合格」と見出しで報じ、他紙も「対策不足」(毎日)、「対策不十分」(朝日)など、厳しく論じた。
簡単な口座開設、顧客利便優先で拡大したツケ?
FATFの審査報告で問題にされたのが「継続的な管理」だ。預金開設時の本人確認という点では対応が進みつつあるが、その後の取引内容に不審な点はないか、引き続き本人が取引者かといった点の確認について、不十分とされた。
また、NPO法人がテロ組織の資金確保に悪用されるリスクへの評価や監督も不十分と指摘された。
金融庁などは最低ランク判定を避けるため、2018年に金融機関に対し口座の名義人の確認を求めるガイドラインを策定するなど対策に力を入れてきた。ただ、現場での対応は簡単ではない。
名義人に確認書を郵送するなどして、所在地や職業などを問い合わせる作業に金融機関は取り組んでいるが、実際の確認作業は難航。利用されていない口座も多数あるとみられ、金融機関が書類を郵送してもすでに転居しているケースは多い。連絡がついても、「犯罪者と疑うのか」など反発されるケースもあり、手間やコストは、地方銀行や信用金庫など経営基盤の弱い中小の地域金融機関には負担となっている。
スマートフォン(スマホ)決済などの資金移動業者や暗号資産(仮想通貨)交換業者となると、さらに難題だ。窓口などで本人確認をしなくても取引できるだけに、不正送金などが増加している。「パスワード+電話番号」など複数の要素で本人確認する「多要素認証」の導入などが進むが、事業者の負担はもちろん、利用者にも手間がかかることから、利便性を武器に顧客を獲得してきた新興企業などには影響を懸念する声がある。
過度な規制強化はフィンテックの足かせになる
政府は今回の審査結果を受け、対策に本腰を入れる考えだ。審査は、金融機関の取り組みとともに、政府に対しても監督や取り締まり強化を求めていることから、審査結果発表当日の8月30日、「FATF勧告関係法整備検討室」を内閣官房に設置すると同時に、2024年までの3年間の「行動計画」を発表した。
計画では、金融庁と日本銀行が協力し、リスクが高いと思われる取引を事前にリストアップし、金融機関が口座を継続的に監視しているかなどを調べる方針を示した。金融機関の監督強化のため、22年秋までに「対策指針」を改定するほか、テロ資金供与の懸念があるNPOに対する監視体制も整備する。
さらに、24年春までに不正な送金の監視を複数の金融機関で行う共同システムを実用化する。各金融機関が、それぞれに実施している取引監視を共同化し、人工知能(AI)などを用いて検知を効率化する仕組みで、個々に取り組むには資金力が乏しい中小金融機関の負担を軽減し、全体の対策を底上げしたい考えだ。
このほか、関連法令を改正し、資金洗浄の罰則強化、捜査権限の強化なども検討するという。
対策が甘いと見られれば、日本の金融機関の海外活動に響きかねない一方、金融とITが融合したフィンテックと呼ばれる新しいサービスの振興のために過度の規制は避けたいだけに、政府は微妙な舵取りが求められる。(ジャーナリスト 白井俊郎)