日鉄、「脱炭素」に向けて研究・設備投資急ぐ
交渉は激しい応酬になったという。供給制限をちらつかせる日鉄に対し、トヨタは調達先の切り替えに言及した。ちなみに、トヨタが国内で必要とする鋼材の約半分は日鉄に依存している。最終的に8月下旬、トヨタが前の半期に比べて1トン当たり約2万円の値上げを受け入れ、決着した。値上げは2年ぶりで、2010年以降で最大の上げ幅になるという。
この値上げは自動車1台当たりに換算すると1万5000円程度になる計算で、自動車メーカーがどの程度価格に転嫁するか、また転嫁しないかは未定だ。
日鉄が強硬だったのは、足元の原料価格上昇や鋼材価格水準の上昇だけが理由ではない。日鉄は中国メーカーとの価格競争激化といった逆風が吹いていたところに、コロナ禍による国内需要減も加わり、2020年3月期に過去最大の4315億円の連結最終赤字を計上、21年3月期も324億円の赤字だった。
そこで、呉製鉄所(広島県呉市)の閉鎖や和歌山製鉄所(和歌山市)の高炉休止、1万人の人員削減などリストラにも踏み切って経営の立て直しを急いでいる。欧米勢に対抗した海外事業の強化も進める考えだ。
さらに、これからの大テーマが「脱炭素」だ。高炉で鉄鉱石とコークスを混ぜて燃焼させる現在の製鉄は二酸化炭素(CO2)を大量に出す。鉄鋼産業は日本のCO2排出量の1割を占めるだけに、2050年CO2排出実質ゼロのという国策の実現に向け、日鉄単独でも数兆円規模の研究開発投資や設備投資が必要になる。
高炉休止などで「生産過剰」が緩和され、安くてもいいから売る必要が弱まったことから、脱炭素もにらみ、値上げを求めた――日鉄が強気で交渉に臨んだのは、そんな思いがあってのことだろう。