「盟友に亀裂」
「広がる亀裂」
新聞に踊る見出しは、総裁選ではない。日本を代表する大メーカーの関係を扱った記事だ。日本製鉄とトヨタ自動車が続けてきた2021年度下半期(10月~22年3月)の自動車部品メーカー向け鋼材の価格交渉は、大幅値上げで決着した。
激しい応酬があったとされ、今後に禍根を残す可能性もある。
「日本の鋼材価格は理不尽に安い」と日鉄・橋本社長
トヨタは鋼材を大手鉄鋼メーカーから一括して調達し、取引先の部品メーカーに卸している。価格は半年ごとに決めており、日本製鉄とトヨタというトップメーカー同士の交渉結果が全体の目安になる構図だ。
鋼材の価格は大きく、「店売り」と「ひも付き」に分けられる。前者はスポットもので、時々の市況を反映して変動するのに対し、後者は相場変動にあまり左右されず、まとまった量を長期・安定的に取引する。日鉄とトヨタの関係は、まさに後者に該当する。
交渉は8月に入って佳境を迎えた。このころ、「日鉄が、値上げを受け入れないと供給量を減らすと言ってきた」との情報が、関係者のあいだを駆け巡った。
背景にあるのは、新型コロナウイルスのワクチン接種が進んだ欧米の景気急回復だ。自動車用、建設用などの鋼材の需要が拡大し、原料の鉄鉱石の価格も前年の2倍水準の1トン当たり200ドル超に跳ね上がっていた。
日鉄の橋本英二社長は5月28日の鉄鋼連盟会長としての会見で、「個社の社長」の立場の発言として、「日本の鋼材価格は国際的に見て理不尽に安い価格で採算がとれない。早急に是正すべきだ」と述べ、異例の発言と話題になっていた。
価格は原料などの価格を反映することになっているが、どうしてもタイムラグがあり、上昇期は値上げが遅れる傾向がある。