「リーマンショックの再来となるのか!」
総額33兆円、中国の国内総生産(GDP)の約2%に当たる巨額な負債を抱えた不動産開発会社「恒大集団」が経営危機に見舞われている。経営破たんとなれば、世界経済をけん引してきた中国経済が減速することは避けられない。
この事態に、習近平政権は「恒大集団」を救済するのか、見捨てるのか――。
タイムリミットが刻々と迫る。日本の経済シンクタンクのエコノミストたちはどう見ているのだろうか。
中国政府の「管理下による倒産」になるか?
今後の展開はどうなるのだろうか――。中国当局は恒大集団の救済に乗り出すのか、それとも切って捨てるのか。世界の注目が集まっている。
中国政府の「管理下による倒産」が行われるのではと見るのは、岡三証券のシニアストラテジスト、紀香氏だ。「暗雲が垂れ込める中国不動産市場~想定すべき最悪の展開は?~」(9月22日付)の中で、こう推測する。
「恒大の今後の展開については、先行きが見通せない状況だ。政府が取り仕切る『管理下での倒産』によって、理財商品保有者など小口の債権者を守る措置が取られるとの見方が現実的とみられる。広東省当局は恒大に財務調査チームを派遣し資産査定を開始した模様で、債務再編への地ならしともとれる動きが伝わっている。
他方、楽観的なものとしては、中国当局が救済するケースが挙げられる。ただ、これまで当局が整理を急いできた過剰債務の不動産企業を全面的に救済するとは考えにくい。また、不動産価格がある程度下落することは、『共同富裕』(編集部注:貧富の格差を縮小して社会全体が豊かになるという中国共産党が掲げるスローガン)の実現のためには歓迎すべきことと捉えることもできる。価格高騰で上がった不動産取得のハードルは非婚化・晩婚化・少子化の主な要因の一つとされるためだ。
とはいえ、急激な混乱を緩和させる『介入』に動く可能性はありそうだ。実際、中国当局は恒大が銀行やほかの債権者らとの支払期限を巡る再交渉を行うことを認めており、一時の猶予が与えられた格好となっている」
一方、中国当局は「必ずしも救済の選択を選ばないのでないか」という見方を示すのは、第一生命経済研究所の首席エコノミストの熊野英生氏だ。「恒大集団のデフォルト懸念~国際金融市場の火種~」(9月22日付)の中で、こう述べている。
「悲観的な見方として、中国政府の政治判断が必ずしも救済の選択を選ばないという観測は根強い。恒大集団のトップは、一時は中国一の大富豪と言われた人物だ。大富豪を救済するのは、最近の『共同富裕』の方針に反する。過去1年だけでも、中国の有名な経営者たちが『共同富裕』の下で厳しい目に遭った。そうした路線を継続し、庶民からの感情的な不満のほうに流されると、デフォルトを看過する結果を招きかねない。そうした推論が、危機に現実味を与えている」
また、熊野氏は救済スキームが難しいとして、こう説明する。
「恒大集団を救済するとすれば、どういった対応になるのか。国有化するという手法がすぐに思い付く。約20万人というグループの従業員の雇用も、国有化の時点では守られる。しかし、その場合、巨大な過剰債務が保全される代わりに、中国政府の信用が低下する。次々に起こる(ほかの不動産会社の)破綻を救済すると、その場合の保全額はきっと巨大化するだろう」
そして、最後に今回同様の問題は米国にもあると、熊野英生氏は指摘するのだった。
「達観して考えると、これはアフターコロナの構造調整の一例とも言える。コロナ禍では、低金利環境が生まれて、企業の資金調達が容易になった。世界の主要都市では不動産価格が上昇する地域も多い。中国だけではなく、住宅価格が急上昇している米国も火種はあることを忘れてはいけない」
恒大集団を救済すれば、習近平の政策の否定になる
そもそも、習近平政権の規制強化が恒大集団の経営危機を招いたのだから、「救済することは自らの政策を不定することになり、可能性は低い」とするのは、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏の見方だ。「恒大問題の世界のリスクは金融危機よりも中国経済の減速」(9月22日付)の中で、こう説明する。
「もともとは恒大集団の過剰にリスクをとる経営手法に問題があったが、突如経営が行き詰まる直接のきっかけとなったのは、習近平政権による民間企業への規制強化だ。今回の混乱とそれに対する政府の対応の巧拙は、規制強化を今後も断行していけるかどうかの試金石となっている。
習近平政権は格差を縮小し平等な社会を作るという『共同富裕』(共に豊かになる)の実現を掲げ、富の配分を強化する方針を示している。昨年来、民間企業に対する規制強化を加速させてきた。決済アプリのアリペイを提供するアント・グループ、それを傘下に持つEC大手のアリペイなど、IT企業に対する規制強化を強めた後、先日は学習塾など民間教育業に対して強い規制を講じた。 これも、『共同富裕』の理念と関わる。そうした産業が激しい学歴競争と格差社会を助長し、教育費の増加を通じて庶民の生活を圧迫している、あるいは子供を持つことを妨げ出生率の低下にもつながっているとの説明である。
そして、規制強化の対象には不動産業も含まれている。不動産業が投機を煽り、住宅価格が高騰した結果、庶民の生活は圧迫され、また負担面から子供を持つ意欲が削がれていることへの対応である」
そして、木内氏はこう結ぶのだ。
「恒大集団の経営危機は、政府が主導する企業の統制強化の結果で生じた側面が強い。仮に政府が安易に恒大集団を救済すれば、『共同富裕』の理念の下で進めてきている企業の統制強化が誤り、あるいは失敗だったと認めることになってしまうことから、その可能性は低いだろう。
しかし一方で、大きな混乱を政府が黙認する可能性も低い。例えば、恒大集団が保有する土地を一斉に売却すれば、地価が大幅に下落し、土地の保有者の資産が大きく目減りしてしまう。また、土地の売却収入に依存する地方政府の財政にも大きな打撃を与えてしまう。そのため、そうした事態の回避に政府は動くだろう。恒大集団の資産や業務は、他の不動産開発業者に引き継がれるような処理がなされるのではないか」
(福田和郎)